2014年03月17日 12:20 弁護士ドットコム
大手企業の社員による「インサイダー取引」が相次いでいる。証券取引等監視委員会は2月下旬、インサイダー取引きをおこなったとして、ハウスメーカー「大和ハウス工業」の元社員と、家電大手「パナソニック」の20代の社員に対して、金融商品取引法違反の疑いで課徴金の支払いを命じるよう金融庁に勧告した。
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大和ハウス工業の元社員は昨年4月、首都圏を中心に展開するマンション販売会社が、自社と資本提携することを職務上で知ったとされる。この際、元社員はマンション販売会社の株を買いつけ、上昇後に売り抜いて利益を得たという。課徴金額は1314万円にものぼる。
また、家電大手「パナソニック」の20代の社員とその母親は昨年3月、同社の取り引き先の化学メーカーと自社が業務提携をするという情報を知りながら、このメーカーの株を買いつけていたという。社員と母親に課された課徴金額はそれぞれ68万円と50万円だった。
さて今回、問題とされた「インサイダー取引」とは、いったい、どんなものなのだろうか。また、どういう条件がそろえば、「インサイダー取引」とされるのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
まず、そもそも、ここで問題になっている「インサイダー」とはなんだろうか?
「会社の内部情報などについての重要事実を知っている人を『インサイダー(内部者)』といいます」
では、なぜ、「インサイダー」の取引は規制されているのか。
「インサイダー取引を放置すると、インサイダーだけが不当に株で利益をあげたり、損失を回避できることになり、不公平となります。そして、そのような不公平な株式市場には、他の投資家は投資しなくなってしまいます。このような理由で、インサイダー取引は禁止されています」
それでは、「インサイダー取引」となるのはどんな場合だろう?
「インサイダー取引が成立するのは、次の4要件が満たされた場合です。
(1)株式の発行会社や公開買付等の関係者が、
(2)重要事実を知って、
(3)公表前に、
(4)有価証券の取引をした場合」
まず、(1)の要件だが、「関係者」とは、具体的にはどんな人をさすのだろうか?
「(1)の内部者要件については、有価証券の発行会社等の役員・従業員が典型例ですが、発行会社と契約を締結した者など、取引の相手方も含まれる場合があります。
大和ハウス工業のケースはこれにあたります。同社の元従業員は、自社、つまり大和ハウス工業の株の売買をしたわけではなく、自社と業務提携を結んだ取引相手の会社の株式を売却して、利益を得たものです」
さらに、「関係者」は役員・従業員にとどまらない。
「これらの会社関係者から、直接情報の伝達を受けた『情報受領者』も内部者に含まれますね。パナソニックのケースでは、同社の従業員だけでなく、従業員から情報を聞かされた母親も対象とされています」
次に、(2)の「重要事実」とは何をさすのか?
「(2)の『重要事実』とは、新株発行や業務提携などの決定事実、災害等による損害等の発生事実、決算情報や業績予報、その他投資判断に著しい影響を及ぼす事実が含まれます」
このインサイダー取引規制は、株を売買しただけで適用されるのか、それとも儲からなければ、おとがめなしですむものなのか?
「(1)から(4)の要件を満たせば、仮に、株取引で利益を得ていなくても、インサイダー取引に該当します。パナソニックの従業員の母親は、実際には株を買っただけで売り抜けをしていないので、利益が出ていないと報じられていますが、インサイダー取引と認定されています」
このインサイダー取引は近年、規制が強化されている。
「インサイダー取引については、2012年と13年の法改正で、適用範囲が拡大されました。また、証券取引等監視委員会も、インサイダー取引の事後監視を強めているといわれていますので、十分注意して取引をする必要があると思います」
と大和弁護士は言う。知人などから耳寄りな情報を得てもすぐに飛びつかずに、このインサイダー取引に当たらないか注意したほうがいいだろう。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
大和 弘幸(やまと・ひろゆき)弁護士
やまと法律会計事務所 所長
事務所名:やまと法律会計事務所
事務所URL:http://yamato-law-accounting.com