2014年03月16日 20:00 弁護士ドットコム
「有給休暇の完全消化」。実現してみたいけれど、なかなかできないサラリーマンが多いのではないだろうか。厚生労働省の調査によると、2012年の年次有給休暇(有休)の取得率は47.1%。平均18.3日あるうち、実際に取得されたのは8.6日だったという。
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政府は2020年までに、有休取得率を70%にする目標を掲げているが、そんな日が本当に来るのか、少々疑問が残る。なぜなら、有給申請をする際は、上司や同僚に遠慮して、気が引けるからだ。理由を聞かれることも多く、それが個人の楽しみや、秘密にしておきたい内容なら、よけいに申請しづらい。
しかし、考えてみると、説明したところで会社側に確かめる方法はない。「法事」や「家族の看病」「インフルエンザ発症」など、もっともらしい理由をつけてしまえば良い気もするが・・・。「有休」を申請するとき、ウソをついたら、法的に問題があるのだろうか。労働問題にくわしい山田長正弁護士に聞いた。
「労働者は、年次有給休暇(年休)を自由に利用できるという原則(年休自由利用の原則)があり、最高裁でも、この原則は認められています(林野庁白石営林署事件・最高裁判決昭和48年3月2日)。
この原則からすれば、労働者が年休を取る際には、その使い道を会社に伝える必要はありませんし、仮に会社に伝えた内容と異なる使い方をしても、年休取得は妨げられないことになります」
そうなると、「ウソをついてもいい」ということだろうか?
「そこまでは言い切れません。
たとえば、会社が『時季変更権』を行使するかどうかを判断するためなら、労働者に年休の使い道を確認することも許される、と考えられています」
この「時季変更権」とは、何だろうか?
「労働者が日付(時季)を指定して年休を申請したとき、もしその年休取得を認めると、会社業務の正常な運営を妨げるおそれが予見される場合に、会社が年休取得を拒否する権利のことです。
会社は、この時季変更権を行使するための判断材料としてならば、労働者に年休の使い道を聞くことができるわけです。
こうした場合には、労働者としても虚偽の説明を行わないほうがいいでしょうし、場合によっては、虚偽説明により、懲戒処分の対象になる場合もありうると考えます」
懲戒が認められたケースもあるのだろうか?
「過去の裁判例の中には、虚偽の理由を記載した年休届を出したというケースについて、勤務に関する所定の手続を怠ったとして、懲戒理由になるとしたものもあります(古河鉱業事件・東京高判昭和55年2月18日)。この判決では、届出の理由によっては、事業の正常な運営を妨げる場合でも、使用者が時季変更権の行使をさし控えることがありうるため、年休届には正しい理由を書くべきだとされたのです。この裁判例には批判もありますが、注意が必要です」
そうなると、労働者としては、なかなか悩ましい。下手なウソをついたせいで、せっかくの休みを満喫できなくなれば、それもまた残念な話だからだ。とりあえずの対応としては、会社が有休の使い道を聞いてきたら、「なぜ聞くんですか?」と聞き返してみるのがいいかもしれない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/