2014年03月14日 20:10 弁護士ドットコム
第二次大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害の最中にあって、後世に残る「日記」をつづっていた少女アンネ・フランク。そんな彼女の関連書籍が、東京都内の複数の公立図書館で、破られていたことが発覚し、大きな波紋を広げている。報道によると、被害を受けた書籍は『アンネの日記』をはじめホロコースト関連の書籍など、300冊を超えるという。
【関連記事:浦和レッズ「差別的横断幕」で無観客試合 「チケット」買ったサポーターはどうなる?】
歴史的な悲劇であるホロコーストを象徴する『アンネの日記』が傷つけられたとあって、この事件は海外にまで飛び火している。アメリカのユダヤ系人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターは、「強いショックと懸念」を表明した。また、日本政府も菅義偉官房長官が「きわめて遺憾なことであり、恥ずべきこと」と会見で述べ、犯行を非難している。
事件は、3月13日になって新たな展開を迎えた。書店への不法侵入で逮捕されていた男が、図書館で本を破ったことを認めるような供述をしている、というニュースが流れたのだ。警視庁は慎重に捜査を進めているということで、真相解明にはまだ時間がかかる見込みだ。
ところで今回の事件では、公立図書館の本が傷つけられたわけだが、犯行をおこなった人物はどのような罪に問われうるのだろうか。また、仮に同一人物が300冊を破ったとすると、「300の罪を犯した」とされるのだろうか。元検事で刑事事件にくわしい山田直子弁護士に聞いた。
「書籍を破ったり、汚すなどの行為は器物損壊罪(刑法261条)にあたります。器物損壊罪は親告罪とされているため(刑法264条)、図書館運営者の告訴があった場合のみ、起訴されることとなります」
図書館の本を傷つけた場合の罪は、「器物損壊罪」ということだが、破った冊数と成立する犯罪数の間にはどんな関係性があるのだろうか?
「300冊の書籍を、それぞれ別の機会で破損する行為を犯した場合は、この器物損壊罪の犯罪事実が300件成立します。
300件分の器物損壊罪につき、一回の裁判で判決を受ける時は、これらの各罪は併合罪(刑法45条)として扱われます」
その「併合罪」として、まとめて処理されるそうだが、刑罰はどうなるのだろうか。
「併合罪については、『併合罪加重』という決まりがあります」
このように山田弁護士は説明する。
具体的には、どんな風に決まるのだろうか? ちょっとややこしいが、それは次のようなものだ。
「器物損壊罪は、法定刑が、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料とされています。
もし、懲役刑が選択され、2件以上の器物損壊罪について『併合罪加重』とされた場合は、懲役刑の長期上限が1.5倍の4年6カ月までに引きあげられます。懲役刑の場合、このような上限があるため、2件でも300件でも上限に変わりはありません。
一方、罰金刑が選択された場合には、このような上限がないため、300件の場合は、罰金上限30万円を300倍した9000万円が上限となります」
つまり、懲役刑については、どれだけ多数の本を破っても4年6カ月を超えることはないが、罰金刑のほうは、1億円近くになる可能性もあるというわけだ。そうなると、罰金刑の方が"厳しい”と受け止められるケースも、理論上はありそうだ。
山田弁護士は「ただ、現実的には、このようなケースでは、懲役刑が選択されて、求刑・判決宣告となると思います」と話していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山田 直子(やまだ・なおこ)弁護士
奈良弁護士会所属(元検事)
事務所名:弁護士法人松柏法律事務所生駒事務所
事務所URL:keiji-shohaku-law.jp/