2014年02月26日 18:21 弁護士ドットコム
誰でも「空の旅」は穏やかなものであってほしいはずだ。だが、2月上旬、成田発ニューヨーク行きの全日空旅客機の機内で、日本人の男性客が暴れて、アラスカの空港に臨時着陸するというトラブルがあった。
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報道によると、この男性は機内で、客室乗務員やほかの乗客を怒鳴りつけたり、前の座席の背もたれを叩く迷惑行為をはたらき、乗務員の制止にも応じなかったため、結束バンドで座席に縛り付けられた。男性はそれでも大声を出したり、つばを吐くなどの行為をやめず、着陸後に米連邦捜査局(FBI)に逮捕されたという。
今回報道されているような迷惑行為への対処は、法律上、どのように決まっているのだろうか。航空に関する法律にくわしい金子博人弁護士に聞いた。
「国際線内の迷惑行為については、『航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約』(1970年8月発効)という条約があります。航空会社を持つ大部分の国が、この条約に加盟しています。
この条約が適用されるのは、航空機の動力が離陸のため作動したときから、着陸の滑走が終了するまでの間です。
規制の対象となる行為は、機内での(1)刑法上の犯罪と、(2)航空機や機内の人・財産を害したり、害するおそれのある行為、および、機内の秩序・規律を乱す行為です」
もし機内で、条約の対象となるような犯罪や問題行為が起きた場合、どんな対処がなされるのだろうか?
「まず、行為者を拘束したり、飛行機から降ろしたり、当局へ引き渡したり、その他必要な措置をする権限は、『機長』に与えられています。
本件のように暴れた乗客がいれば、結束バンドで縛り付ける権限が機長にはあります。それでも止めなければ、航空機や乗員・乗客のため、機長の権限で、緊急着陸し、当局に引き渡すのは当然です。
なお、機長以外の乗員や乗客についても、機体や人、財産の安全を守るため、『直ちに必要であると信じるに足りる相当な理由』がある場合には、機長の承認を得ることなく防止措置を取ることができることになっています」
なぜ飛行機では、機長にこれほどの権限が与えられているのだろうか。金子弁護士は、次のように指摘する。
「それは、航空機は脆弱な運搬手段であり、閉鎖空間で逃げ場がないという特殊性があるからです」
ちなみに、このようなルールは日本の航空法にも取り込まれていて、国内線も同じルールが適用されるということだ。
一方、ひとくちに「犯罪」といっても、その定義や内容は国によっても違う。機内での「犯罪」は、どこの国で裁かれるのだろうか?
「機内の犯罪行為は、航空機が登録している国が刑事手続き上の管轄を持つのが原則で、日本の刑法1条2項で明記されています(属地主義の延長。旗国主義)。本件は、日本の航空機ですから、日本が管轄権を持ちます。
ただし、航空機の場合、ある国の上空で事件が起きれば、属地主義の原則により、その国が持つこともありえます(管轄が並存します)。したがって、日本の航空機内で起きた犯罪でも、FBIにより現行犯で逮捕されるということもありえます(ただし、日本の刑法が適用されるという前提の場合でもFBIは逮捕します)」
そのとき飛んでいた土地の法律が適用されることもある、ということだが、実例はあるのだろうか?
「国内線ですが、2012年、兵庫県の上空で、客室乗務員(CA)のスカートの中を盗撮したとして、兵庫県の迷惑防止条例違反で、羽田で、警視庁に逮捕されたというケースがありました」
飛んでいる航空機の中は、法律上も、特殊な場所として扱われるということだ。いくら身近な乗り物になったとはいえ、利用の際には、きちんと気を引き締めて搭乗するのが良さそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
金子 博人(かねこ・ひろひと)弁護士
国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。
事務所名:金子博人法律事務所
事務所URL:http://www.kaneko-law-office.jp/