2014年02月26日 11:22 弁護士ドットコム
「3月に出るアルバムはバンドの意思で出す作品ではありません。レコード会社が一方的に出す作品です」――。若者に人気のロックバンド「クリープハイプ」が2月中旬、このようなメッセージを公式サイト上に掲載した。
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「クリープハイプからみなさんへ」と題された、メンバー連名のメッセージによると、3月に発売予定のベストアルバムは、タイトルや収録曲、発売日などがすべて、レコード会社によって決められたという。メンバーや事務所には一切連絡がなく、ニュースを見て初めて発売を知ったそうだ。
メッセージには、「どうにかならないか1週間、メンバーとスタッフと何度も話し合って、それでもどうにもならなくて、契約にも法律にもレコード会社にも、今まで守られてきた物に、こんなに苦しめられるとは思いませんでした」と綴られていた。
アーティストに断わりもなく、レコード会社がこのようにアルバムを作って販売しても、法的には問題とならないのだろうか。著作権問題にくわしい井奈波朋子弁護士に聞いた。
「音楽バンドは、著作権法でいうと、『実演家』に該当します。
実演家にはその実演を録音する権利があります。この録音権は、最初に録音することに対してだけでなく、すでに録音されたものを増製することにも及びます。
レコード会社がアーティストのベストアルバムを制作する場合、すでに録音されているアーティストの音源を再び利用し、増製することになります。
つまり、この録音権が及びますので、録音権を持っている人の許諾が必要となります」
そうすると、今回のようにレコード会社が一方的にベストアルバムを制作するのは、問題ではないか?
「多くの場合、アーティストとレコード会社の間には、『専属実演家契約』が締結されています。
本件では、レコード会社とアーティストの具体的契約内容はわかりませんが、専属実演家契約においては、実演家が実演に対して有する録音権などの権利は、レコード会社に対して譲渡され、レコード会社に帰属する取り決めをするのが普通です。
アーティストは、その代わりに、いわゆるアーティスト印税といわれる対価を受け取ることになります」
すると、結論としては……。井奈波弁護士は次のように話している。
「レコード会社は、このような契約に従って、ベストアルバムを制作し、発売しようとしているものと考えられます。
そうしますと、アーティストとの間のコミュニケーション不足があったことは否めないと思いますが、法的な問題はないと考えられます」
クリープハイプが契約していたレコード会社のウェブサイトでは、当初の発表どおり、ベストアルバムが3月に発売される予定であることが告知されている。そのページには、次のようなメッセージが掲載されている。
「クリープハイプおよび所属事務所との諸契約は、本作企画段階において終了しております。本作品は、アーティスト在籍中の契約に則り、当社が編成、発売する商品です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
出版・美術・音楽・ソフトウェアの分野をはじめとする著作権問題、商標権、ITなどの知的財産権や労働問題などの企業法務を中心に取り扱い、フランス法の調査、翻訳も得意としています。
事務所名:聖法律事務所
事務所URL:http://shou-law.com/