2014年02月25日 14:40 弁護士ドットコム
しんしんと寒さが身にしみ入る中、一面の雪景色を見ながら湯に浸かる……。冬の温泉には格別の味わいがある。だが、そんな温泉の浴場に、携帯電話やスマートフォンを持ち込む人がいたら、どう思うだろうか?
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インターネットの相談サイトにも、「温泉の女湯に携帯を持ち込んでいる女性がいた」という投稿が寄せられている。もし、こうしたケースに遭遇したら、おそらく多くの人が盗撮を思い浮かべるだろう。最近では、カメラの音を消すスマホアプリもあるという。不安でゆっくりできず、せっかくの温泉情緒も台無しになるかもしれない。
このように、浴場に携帯やスマホを持ち込む人に対して、「法律違反だ!」とは言えないのだろうか。それとも単にマナーの問題として、持ち込まないように「お願いする」しかないのだろうか。日弁連の刑事法制委員会の委員をつとめる小笠原基也弁護士に聞いた。
「温泉等の公衆浴場に携帯電話やスマホを持ち込むことについて、刑罰を設けて直接禁止する法律は、いまのところありません。」
小笠原弁護士はこのように述べる。なぜ法律で禁止されていないのだろうか?
「刑罰というのは、人権を最も規制する方法です。したがって、そうまでしてでも守るべき利益(法益)があり、それが実際に害されたり、害される危険が生じたときのみ、刑罰を科すべきだ、と考えられています。
こうした考え方からすると、単に『盗撮されるかもしれない不安』だけでは、刑罰を科してまで保護すべき利益とは言いにくい、というのが現状でしょう」
小笠原弁護士はこのように指摘する。そうなると、温泉にスマートフォンなどを持ち込んでもおとがめなし、ということだろうか?
「いえ、携帯電話を公衆浴場に持ち込んだことが原因で、処罰される可能性はありますよ。
たとえば、盗撮目的を秘して携帯等を持ち込んだ場合には、建造物侵入罪が成立する可能性があります。また、浴場のルールに反して携帯を持ち込み、管理者から出ていけと言われたのに従わなければ、不退去罪になる可能性もあります。
さらに、実際に盗撮したり、その映像をネットに配信などすれば、民事責任を負うことになったり、刑罰が科されることがあるのはいうまでもありません」
そうなると、カメラ付き携帯を温泉に持ち込まないで、というのは単なるマナーの問題というわけでもなさそうだ。小笠原弁護士も次のように指摘し、注意を促していた。
「自分のブログ用など、その人に全くやましいところがなくても、カメラ機能付きの機器を持ち込めば、盗撮の疑いをかけられるリスクは否定できません。
万一、警察に通報されて逮捕ということにでもなれば、最終的に処罰を免れたとしても、無駄な時間を浪費することになります。また、そのようなトラブルが多発すれば、将来的には、法律や条令で規制されることも考えられます。
カメラ機能のある機器を持ち込む際には、こうしたリスクに十分注意すべきです。実際に中で撮影をするとなれば、きちんと許可を取って行う必要があるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小笠原 基也(おがさわら・もとや)弁護士
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員
事務所名:もりおか法律事務所