2014年02月22日 15:00 弁護士ドットコム
この冬も、ノロウイルスが猛威をふるっている。1月中旬には、静岡県浜松市の小学校で、給食の食パンから大規模な食中毒が発生し、嘔吐(おうと)や下痢の症状を訴える児童が1000人を超えた。また、広島市で1月下旬に中学校の生徒ら300人以上が食中毒となるなど、全国で「ノロウイルス・ショック」があいついだ。
【関連記事:夜間に「無灯火」の自転車が乗用車と衝突・・・責任はどちらにあるのか?】
非常に強い感染力で知られるノロウイルスは、ほとんどが食品などを介して、経口で人に感染する。潜伏期間は24~48時間。感染しても症状が出なかったり、風邪のような症状でおさまったりすることもある。しかも、感染してから1週間~1カ月は、体内にウイルスが残るというから、やっかいだ。
こうした状況の中、食品会社などは、ノロウイルスの集団感染対策のために目を光らせている。だが、従業員の中には、感染した自覚がないまま働く人もいるかもしれない。実際、浜松と広島のケースでは、いずれも給食の一部を調理・製造した会社の従業員からウイルスが検出されている。
もし仮に、ノロウイルスに感染した従業員が業務を続けて、集団感染が起きたら、従業員個人として法的な責任を問われるのだろうか。雪印乳業集団食中毒事件で被害者側の弁護団長をつとめた経験のある田中厚弁護士に聞いた。
「従業員自身が感染に気づくことができなかったら、『個人』としての責任を問うことは難しいでしょう。
ただし、ノロウイルスに感染したことを従業員自身が知ることができたのに、あえて働いて、集団感染を起こしたような場合なら、『過失あり』として、業務上過失致傷の刑事責任や、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことにもなりえます」
このように田中弁護士は指摘する。感染を知ることができたかどうか、つまり「予見可能性」があったかどうかで、結論が変わってくるようだ。もしも感染を知ることができた場合、それでも無理して働くのは、相当リスクが高い行為だといえそうだ。
田中弁護士は続けて、集団感染の責任が「会社側」に生じる可能性についても言及する。
「従業員が感染を知ることが可能だったのにもかかわらず働いていて、その結果として集団感染が起きた場合、従業員を雇用していた使用者も、安全管理体制に欠けるところがあれば、同様に業務上過失致傷の刑事責任を負います。
その場合、使用者は民事上の責任として、使用者責任(民法715条)による損害賠償責任も負うでしょう。
ただし使用者責任は、従業員の選任やその事業の監督について、使用者が『相当の注意をした』または『相当の注意をしても損害が生じたはずだ』ということを立証できれば、免責されます」
ノロウイルスについては、個人としても、会社全体としても、その危険性を十分に認識しなければならないということだろう。もし自分が食べ物を扱う職場に勤めていて、感染の可能性に気づいたような場合には、くれぐれも慎重に行動すべきといえそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田中 厚(たなか・あつし)弁護士
元日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長(PL情報公開部会長)、元大阪弁護士会消費者保護委員会委員長、元公益通報者支援委員会委員長。数多くの欠陥住宅事件を扱い解決した。
事務所名:太平洋法律事務所
事務所URL:http://www.taiheiyolaw.com/