2014年02月20日 13:30 弁護士ドットコム
両耳が聞こえない「全聾(ろう)の作曲家」として脚光を浴びていた佐村河内守さんをめぐるスキャンダルは、その「聴力」に対する疑念へと発展した。ゴーストライターの新垣隆さんが「耳は聞こえていた」と告発したのを受け、佐村河内さんも「3年ほど前から少し聞こえるようになった」と告白。さらに、障害者手帳を交付した横浜市の担当者と面会し、医師による再診察を受けることになったと、報道されている。
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佐村河内さんは、聴覚障害の中で最も症状が重い「聴覚障害2級」(両耳全聾)と認定され、障害者手帳の交付を受けている。これがあれば、住民税や所得税の控除や障害基礎年金の支給が受けられるという。一方、「回復した」という佐村河内さんの説明には疑問の声も出ており、厚生労働大臣が国会で「手帳交付時の聴力検査のあり方を検討する」と述べる事態になっている。
佐村河内さんの聴力をめぐる「真実」については、今後の調査結果を待つしかないだろう。では、一般論として、聴力が正常にも関わらず障害者手帳を取得したり、あるいは回復した後も持ち続けていたとしたら、何かの犯罪にあたるのだろうか。河野祥多弁護士に聞いた。
「もし本当は聞こえていたのに、聞こえていないふりをして、障害者手帳を取得した場合は、詐欺罪の成立が問題となりますね。
詐欺罪は、人を欺いて、財産的価値のある『財物』を交付させることをいいます。
こういうケースなら、『人を欺いた』とは言えるでしょうから、残るポイントは障害者手帳が財物と言えるかどうかでしょう」
どういうものなら財物になるのだろうか?
「たとえば、健康保険証は、給付金を受ける権利を証明する文書ですから、それ自体に『経済的価値効用』があるとして、多くの裁判で『財物』だと認定されています。逆に、同じ公的な書類でも、パスポートは財物にあたらないとされています。
そう考えると、障害者手帳は、持っていれば年金などを受け取れるという『経済的価値効用』がありますので、『財物』とみなされるでしょう。
したがって、人を欺いて身体障害者手帳を交付させれば、詐欺罪が成立すると思われます」
では、聴覚を取り戻した後にそれを申告せず、手帳を持ち続けた、というケースなら?
「身体障害者福祉法第16条は、『障害を有しなくなったとき』には、すみやかに手帳を返還しなければならないと規定しています。
したがって、理屈上は、明らかに障害が回復したにも関わらず、手帳を返還しない場合には、詐欺罪が成立する余地が出てきます。
ただ、この『障害を有しなくなったとき』がどんな場合を指すのかは、明確ではありません。裁判で詐欺罪の成立を証明するのは、実際には簡単ではないといえそうです」
河野弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河野 祥多(こうの・しょうた)弁護士
2007年に東京・茅場町にて事務所を設立以来、個人の方の相談を受けると同時に、従業員100人以下の中小企業法務に力を入れている。最近は、ビザに関する相談も多い。土日相談、深夜相談も可能で、敷居の低い法律事務所をめざしている。
事務所名:むくの木法律事務所
事務所URL:http://www.mukunoki.info/