2014年02月18日 12:00 弁護士ドットコム
男子フィギュアスケートで日本初の金メダリストが誕生するなど、盛り上がりを見せているソチ五輪。一方、人権問題などで国際的な非難を浴びている開催国ロシアでは、五輪開幕直前の昨年12月、国内の2万人以上を対象に「恩赦」を与える法律が成立していた。
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ロシアの狙いは、政治犯に対して寛大な姿勢を見せ、国際社会からの批判を軽減するため、などと指摘されている。釈放された人たちの中には、プーチン大統領批判の曲を演奏して投獄された女性バンド「プッシー・ライオット」のメンバー2人も含まれていた。2人は釈放後さっそく、ニューヨークやオランダなど各地で、政権批判を訴えているという。
このような「恩赦」という仕組みは、日本にも存在するのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。
「恩赦制度は、日本にもあります」
猪野弁護士は、こうアッサリ述べた。恩赦があると、どうなるのだろうか。
「恩赦には、裁判で確定した刑を減免したり、選挙権などの権利を復権させたりする効果があります。
実は、憲法に恩赦に関する規定があって、内閣が恩赦を『決定』し、天皇が国事行為として『認証』するとされています。具体的な手続きは、恩赦法などで規定されています」
裁判で決まったことを、政治がひっくり返してもいいのだろうか?
「このような制度は、司法・立法・行政がお互いに緊張関係にある『三権分立』との関係で、問題がないわけではありませんが、適正に執行されるのであれば、刑事政策としては有用です。
たとえば、かつては、『尊属殺人』が違憲とされる前に判決を受けた既決囚の量刑を、後から是正するために利用されました」
司法が対応できないようなケースを、柔軟に取り扱うことも可能となるわけだ。制度そのものに問題点はないのだろうか。
「この恩赦には、特定の者に対して個別に審査して行われる『個別恩赦』と、政令で一律に行われる『政令恩赦』とがあります。
政令恩赦は、最近では現天皇が即位したときに行われ、約250万人が復権しています。昭和天皇大喪の際には約1014万人が復権しています。
政令恩赦はこのように、天皇に関することで行われ、復権する対象は、その多くが公職選挙法違反で公民権が停止された者でした。そのようなことから、自民党政府は恩赦を政治的に利用してきたという批判もあります」
政治利用は避けなければならないと言えそうだが……。猪野弁護士は次のように、恩赦制度の運用を国民がチェックする必要性を指摘していた。
「今回ロシアで行われた恩赦は、諸外国からの批判をかわすためのものですが、我々から見れば『そもそも釈放して当然の事案』、つまり元々処罰されるべきでない人が釈放されただけ、とも言えそうです。
ただ、このように、とかく恩赦は政治に利用されがちです。特に、大勢を対象に一律で刑を免除したり復権させる形式の恩赦については、本当にそれをする必要があるのかどうか、厳しい目で見ていく必要があるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://www.ac.auone-net.jp/~inolaw/index.htm