2014年02月14日 12:10 弁護士ドットコム
沖縄・嘉手納基地の米軍ヘリが墜落し、航空機関士が死亡した昨夏の事故について、米軍は1月下旬、墜落原因が「パイロットの操縦ミス」だったと発表した。
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事故が起きたのは、昨年8月。米軍嘉手納基地に所属するヘリコプター(HH-60G)が、沖縄県宜野座村のキャンプハンセンの敷地内に墜落したのだ。報告書によると、事故機は「8の字」を描くように飛行する訓練中、他のヘリとの衝突を回避しようとして、墜落したという。
痛ましい内容だが、訓練に事故はつきものとも言える。今回はたまたま民間人の被害者は出なかったが、もし万が一、米軍ヘリが起こした事故で、民間人に被害が出たり、建物・家屋などに被害が出たとしたら、賠償はどうなるのだろうか? 普通の「事故」のように、米軍に対して損害賠償を求めていくことになるのだろうか?
2004年には、沖縄国際大学のビルに米軍ヘリが墜落し、建物に大きな被害が出たこともあったが……。沖縄の林朋寛弁護士に聞いた。
「そのような場合、損害賠償責任を負うのは『日本国』です。
『日米地位協定の実施に伴う民事特別法』の第1条は、米軍人が職務上、日本国内で他人に違法な損害を与えた場合は、日本国が賠償すると定めています。
つまり、損害賠償責任が生じるような事故を『米軍人』が起こした場合、まずは『日本国』が彼らに代わって、被害者に対する損害賠償をすることになっているのです」
米軍が起こした事故でも、直接的な損害賠償責任を負うのは、なんと「日本国」ということだ。米軍は全く賠償をしないのだろうか?
「いいえ、そうではありません。これは分かりやすくいうと、日本国がいったん肩代わりし、後から米国にその分を払ってもらう、という仕組みです。ただし、注意すべきは『米国に全額を払ってもらえるわけではない』という点です。
たとえば、米国のみに事故責任がある場合には、米75%・日25%の割合で賠償金を分担することになっています(日米地位協定第18条5項(e))。
つまり、たとえ米国側に100%責任のある事故でも、日本国は25%を負担しなければならない、と取り決められているのです」
では、被害者個人が、事故を起こした米軍人個人に対して民事訴訟を起こし、損害賠償を請求していくことも不可能なのだろうか?
「訴訟を起こすこと自体はできますが、請求は認められません。
なぜなら、国家賠償法で公務員個人の賠償責任が否定されているのと同様の理由で、米軍人個人の賠償責任が否定されているからです。
また、日本の判決による米軍人への強制執行手続は、日米地位協定第18条5項(f)で否定されています。つまり、もし裁判所に支払いを命じる判決を出してもらっても、強制的に取り立てることができないのです」
そうなると、被害者は、金銭的な救済こそ受けられるものの、司法を使って米軍や米国の事故責任を追及するのは不可能、ということになりそうだ。林弁護士はこうした点を踏まえたうえで、次のように話していた。
「沖縄国際大学のヘリ墜落事故でも、被害を受けた大学や職員等には、日本国から賠償金が支払われ、米国から日本国に対して、米国負担分が償還されたようです。
独立国であるはずの我が国のありようとして、こうした取り決めや米軍基地の現状に問題はないのか、事故をきっかけに、日本国民として考えるべきことは多いと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道出身。沖縄弁護士会所属。日本弁護士連合会・弁護士業務改革委員会委員(スポーツ・エンターテインメント法促進PT、企業の社会的責任(CSR)と内部統制に関するPT)。経営革新等支援機関。『スポーツ事故の法務-裁判例からみる安全配慮義務と責任論-』(共著)。
事務所名:カフー法律事務所
事務所URL:http://oki78.biz/