2014年02月13日 11:30 弁護士ドットコム
電子書籍を貸し出す「電子図書館」がもっと身近になるかもしれない。大手の印刷会社や出版社が今春から、公共図書館による「電子書籍の貸し出し」を支援するサービスを本格化させるというのだ。
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紙の本と違い、電子書籍はインターネットでいつでもどこでも利用者に提供することができ、蔵書を置くスペースに悩むこともない。複数の利用者が1つの書籍を同時に読むこともできる。そんなことから、電子書籍の貸し出しサービスはどんどん普及してよさそうなのだが、そうなっていない。法律や技術の壁があるからだ。
法律面でいうと、現在の制度のもとでは、公共図書館は「紙の本」ならば無料で貸し出しできるが、「電子書籍」については著作権の処理をしないと貸し出せない。また、技術面で、コピー防止のシステムづくりも大きな負担となっている。
印刷会社や出版社による「電子図書館」支援サービスは、このような公共図書館の課題を解決しようというものだが、根本的な問題は、電子図書館に関する法律がまだ整っていない点にあるといえる。アメリカではすでに、電子図書館が広がりつつあるというが、日本はいままさに、新たなルール作りが求められている段階なのだ。
では、図書館の利用者と著作権者と電子書籍業者のいずれにも利益があるような形で、電子図書館を発展させるためには、どのような法整備が必要なのだろうか。電子図書館の普及に向けた法的な課題について、著作権問題にくわしい福井健策弁護士に解説してもらった。
「図書や雑誌は基本的に著作物の束ですので、それを電子化してユーザーに提供しようとすれば、著作権者の許可が必要です。電子書籍を『販売』する行為と、(一定期間でデータが消滅する)『貸出』は、どちらも著作物の複製や公衆送信であって本質的に違いはありません。ビジネス上も、電子図書館と電子書店は限りなく近似し、たやすく競合するとも言えます。
紙の本の貸出では、借りたい人は図書館まで来なければならず、また1冊の本は一度に1人しか借りられないなど、物理的に制約があります。電子図書館の場合、理論上はこうした制約はないので、たとえば一度に100人が同じ電子書籍を『借りる』ことも可能です。
そのため、作家や出版社の収入を害さずにいかに共存するかがテーマになります」
「この点で先行するのは米国で、トップランナーの『オーバードライブ』社による電子書籍貸出サービスは、全米の公共図書館の95%以上が導入済みといわれています。
オーバードライブ社は作家や出版社と契約しており、図書館が同社に年間料金を支払うと、一度に一定数までのユーザーに、電子書籍を貸し出すことができます。さらに読んだ本が気に入れば、アマゾンなど書籍の販売サイトにリンクするなど、書籍の販売にもうまく連動させようとするサービスですね。
日本でも、こうした電子図書館を拡充するためには、書籍をめぐる権利関係を明確にして権利情報の集約化をはかったり、過去作品の50%以上ともいわれる権利者不明作品(いわゆる孤児著作物)の対策を整えるなどが課題です。最近ではKADOKAWA・講談社・紀伊国屋書店が組んだ学校・図書館向けの電子書籍貸出サービスの試みもあって、今後の動向が注目されますね」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
骨董通り法律事務所 代表パートナー
弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部 客員教授。「著作権とは何か」「著作権の世紀」(集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。
Twitter: @fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com