2014年02月10日 17:50 弁護士ドットコム
子どもを取り違えられた父親の葛藤を描いた映画『そして父になる』が話題を集めたり、有名芸能人の子どもが「実の子」なのかをめぐって騒動になったりと、昨今は親子関係をめぐる話題に事欠かない。そんな中、人間の遺伝情報が含まれるDNA(デオキシリボ核酸)を調べて生物学的に親子かどうかを判断する「DNA鑑定」に注目が集まっている。
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料金は1回につき数万円から10数万円とされ、決して安いとはいえないが、DNAの採取は口の中を綿棒で軽くこすったりするだけですみ、インターネット経由で鑑定を申し込める手軽な業者も登場している。テレビドラマやニュースでDNA鑑定が多く取り上げられていることもあり、認知度の向上につれて、利用する人が増えているという。
一方でDNA鑑定は、もたらされる結果によっては、親と子の双方の人生を大きく揺さぶりかねない重い意味を持つ。仮に、父親が子どもとの血のつながりを調べるためにDNA鑑定を依頼する場合、子ども自身や母親の許可をもらう必要はあるのだろうか? もし父親が勝手にサンプルを送って鑑定を依頼した場合、あとで知った子どもや母親が精神的に傷ついたとして「慰謝料」を求めてきたら、応じなければならないのだろうか。田村勇人弁護士に聞いた。
「まだ確立した判例は見当たりませんが、結論から言うと、慰謝料の支払いは不要と考えます」
田村弁護士はズバリこう指摘する。なぜそういえるのだろうか?
「仮に今回のケースで、慰謝料請求を考えるなら、次のような点を主張することになるでしょう。
(1)母親の反対を押し切って子供のDNAを採取して鑑定することは、子や母親の『違法な』プライバシー侵害行為にあたる。
(2)父親が父子関係を疑ったことは、家族関係を不安定にする『違法な』行為にあたる。
しかし、これらの主張は両方とも認められないと思われます」
それぞれ理由を聞いてみよう。
「まず(1)に関しては、DNA情報は確かに子どものプライバシー情報ですが、調査をするのは、親権者である父親です。
さらに、『父子関係が生物的に存在するかを確かめる』という調査目的は正当で、父親にとっては、生物としての根源的な欲求とも言えるでしょう。
したがって、こうしたDNA鑑定は正当な行為として甘受されるべきであり、子のプライバシーを『違法に』侵害してはいないと考えられます」
子どもではなく、母親のプライバシー侵害にはならないのだろうか?
「子のDNA鑑定をすることで、直接的に母親のプライバシー情報が侵害されるとまでは認められないでしょうね。
もし仮に、『母親が不貞したというプライバシー情報』が家族に伝わるとしても、それは問題とはみなされないでしょう」
(2)についてはどうだろうか?
「(1)と同様、父子関係を確かめようとする行為が、違法行為とは言えないと考えます。
もし仮にDNA鑑定によって父子関係が否定されたことで、『結果的に子の安定性を害した』と言われたとしても、その原因は父親ではなく、婚姻中に不貞の子を妊娠した妻側にあると言えるでしょう」
田村弁護士はこのように「たとえ父親が無断で父子鑑定のDNA鑑定を行ったとしても、違法とは言えず、慰謝料を支払う必要もない」という見解を述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田村 勇人(たむら・はやと)弁護士
離婚等男女問題の専門家として活躍する一方、医師・歯科医・獣医側の医療訴訟を多数手掛ける。過去に、「知りたがり」のレギュラーコメンテーター、「ノンストップ」、「ワールドビジネスサテライト」、「特ダネ!」、等々のテレビ番組でも活躍、大沢樹生と喜多嶋舞の事件についても、テレビ番組で解説を担当している。
事務所名:弁護士法人フラクタル法律事務所
事務所URL:http://www.fractal-law.com/