2014年02月05日 11:52 弁護士ドットコム
喫煙に対する風当たりが、ますます厳しくなっているアメリカ。そんななか注目されているのが、味や香りを付けた水蒸気を楽しむ「電子タバコ」だ。本物のタバコを吸っている感覚に近いとして、禁煙者だけでなく喫煙者からも、代替品として支持されている。
【関連記事:「残業代」がゼロになる!? 安倍政権が導入めざす「日本型新裁量労働制」とは何か】
しかし、米ニューヨーク市は4月末から、条例で「電子タバコ」に対する規制を強める、と報じられている。従来のタバコに比べて微量のニコチンしか含まない「電子タバコ」は、これまで禁煙のレストランなどでも利用できたが、今後は禁止される。たとえ微量のニコチンでも、健康への長期的な影響は不明だからという。食品などの安全を守る米食品医薬品局(FDA)も、規制を検討しているようだ。
このように、アメリカで議論を巻き起こしている「電子タバコ」。日本でも吸っている人を見かけることはあるが、国内でも購入できるのだろうか? もし日本でも販売されているとしたら、何か利用のためのルールはあるのだろうか? 受動喫煙訴訟に取り組む岡本光樹弁護士に聞いた。
「日本では、すでにニコチン入り電子タバコの販売は禁止されています。
厚生労働省は、平成22年8月18日に『ニコチンを含有する電子タバコに関する薬事監視の徹底について(依頼)』との通知を発しました。
ニコチンは『専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト』に掲載されている物質であるから、ニコチンを含有する電子タバコは、薬事法上、無承認無許可医薬品等として、販売中止や回収等を指導する、との内容です。
また、独立行政法人国民生活センターは、『ニコチンを含まない』と表示して販売している電子タバコにも、実際にはニコチンが含まれる製品が一部あるとして、行政上の対策を求めています」
つまり現時点では、『ニコチンを含む』電子タバコの国内販売は、基本的にできないということだろう。個人輸入はどうだろうか?
「海外の電子タバコについて、行政上の所定の手続きを経て、自己の個人的な使用のため輸入する場合、薬事法上の罰則はないと考えられますが、厚労省は、ニコチン以外の有害な物質が含まれていることや、品質・有効性・安全性が確認されていないこと等を挙げて、安易な使用を避けるよう呼びかけています」
岡本弁護士は続けて、「ところで、こうした通知を見ると、我が国のタバコに関する法制上の矛盾・不均衡が改めて浮き彫りになっているのがわかります」と切り出した。どういうことだろうか?
「まず、電子タバコが販売できないのは、先ほど述べた通りです。
また、禁煙治療のためのニコチンガムやニコチンパッチは厚労省の所管で、薬事法が適用されています。薬事法のもとでは、製造業者に添加物の種類・量等の詳細な報告義務が課され、また副作用について添付文書による消費者への詳細な情報開示が義務付けられます。
しかしながら、一般に販売・使用されている『製造たばこ』は、電子タバコよりもはるかに多量のニコチンを含んでいるにもかかわらず、薬事法の規制を受けずに、たばこ事業法のもと、財務省が所管しています」
ということは……?
「すなわち、(1)電子タバコについては、ニコチン含有を理由に、薬事法上、無承認無許可として販売が禁止されている。
(2)ニコチンを体内に緩やかに吸収する仕組みで、治療目的に利用されるガムやパッチは、薬事法の厳しい規制下におかれている。
ところが(3)ニコチンを脳内に急激に吸収させる仕組みで、ニコチン依存症を作り出す『製造たばこ』は、こうした薬事法上の規制は受けないまま、製造・販売されているのです」
つまり、いちばん強烈なものが、いちばん手に入りやすいわけだ。岡本弁護士はこのような点を踏まえたうえで、次のように指摘していた。
「『製造たばこ』について厳しい規制がされてこなかったのは、我が国の専売制度の歴史や縦割り行政の弊害、タバコ利権をめぐる政官財の構造的問題によるものと考えられます。
我が国を含む177か国が締約国となっている『たばこ規制枠組条約』も踏まえて、タバコをめぐる法制のあり方自体について、議論すべき時期が来ているのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡本 光樹(おかもと・こうき)弁護士
1982年岡山県生まれ。05年東大法卒、06年弁護士登録。国内最大手の法律事務所などを経て、11年に独立。企業法務や労働案件、受動喫煙に関する係争・訴訟、家事事件などを幅広く扱う。第二東京弁護士会で人権擁護委・副委員長や受動喫煙防止部会長などを務める。
事務所名:岡本総合法律事務所