2014年02月04日 14:10 弁護士ドットコム
世の中には、筋金入りのアイドルファンがいるものだ。先日も、ある熱狂的なアイドルファンが、好きなアイドルと自分の名前が入った「婚姻届」を、イベント会場でアイドルに差し出したという話が、ネット上で話題となっていた。
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ネットで拡散された婚姻届の写真をみると、アイドルの住所などは空白で、父母の名前もイザナギ・イザナミと書かれていることから、おそらく冗談だったのだろうが……。
だが、やりようによっては、アイドルとのニセの婚姻届を作成・提出することも、不可能ではなさそうだ。万が一、提出されたニセの婚姻届を役所が受理してしまった場合、アイドルが結婚を取り消すためには、どうすればいいのだろうか? 冨本和男弁護士に聞いた。
「その場合、『婚姻は無効である』と主張していくことになります」
このように冨本弁護士は説明する。どんな法律が根拠となるのだろうか。
「民法は『人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき』は婚姻が無効であると規定しています(742条1号)。そもそもアイドルには、婚姻届を勝手に提出したファンと婚姻する意思はないので、この条文を根拠に、婚姻の無効を主張することになります」
そういう場合、誰に対して「無効だ」と言えばいいのだろうか?
「まずは、家庭裁判所に婚姻が無効だと確認してもらうことになるでしょうね。
裁判の前に調停を経る必要がありますが、相手に連絡が付かない等で調停ができないような場合は、アイドル本人が住んでいる場所の家裁に『無効確認の訴え』をする、ということになります。
そうして、『無効』という判決を出してもらったうえで、それを役所に持って行って、戸籍の記載を抹消してもらうということになるでしょう」
ところで、「取り消しではなく、無効」ということだが、何か違いはあるのだろうか?
「無効は結婚が最初からなかったことになります。
一方、婚姻の取り消しは、『将来に向かってのみその効力を生ずる』(民法748条)と決められています。つまり、取り消しが認められても、それまでの期間は有効とされますので、今回のようなケースでは不適切でしょう。
なお、婚姻の取り消しができる場合は、民法で決められており、具体的には次の7つの場合に限られます。
(1)不適齢者の婚姻(年齢制限)
(2)配偶者のいる者の婚姻(重婚の禁止)
(3)再婚禁止期間経過前の婚姻
(4)近親者間の婚姻
(5)直系姻族間の婚姻
(6)養親子等の間の婚姻
(7)詐欺または強迫による婚姻」
冨本弁護士はこのように解説していた。
なお、もし偽造した婚姻届を提出して役所に受理させたような場合、刑事事件となり、「私文書偽造」や「公正証書原本不実記載」の罪に問われる可能性がある。冗談では済まされない行為なので、間違ってもやらないように。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
冨本 和男(とみもと・かずお)弁護士
離婚・債務整理等の一般民事事件を中心に業務を行っている。離婚については、離婚を求められた側の相談・弁護が多い。
事務所名:法律事務所あすか
事務所URL:http://www.aska-law.jp