2014年01月30日 12:40 弁護士ドットコム
食品大手マルハニチロホールディングス(HD)の子会社アクリフーズの群馬工場で製造された冷凍食品から農薬が検出された事件は、同工場で働いていた従業員が農薬を混入した疑いで逮捕され、新たな展開を迎えている。
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逮捕された従業員の取調べはいま進められている最中だが、一連の報道では、「契約社員」だったという点がやけに強調されているように思える。実際、新聞やニュースサイトの記事を並べてみると、ずらずらと「契約社員を逮捕」などという見出しが踊っている。
もしかして、事件を起こした従業員が「契約社員」か「正社員」かで、会社の法的責任に何らかの違いが生じるケースもあるのだろうか。会社関係の法律にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。
「会社の対外的な法律関係においては、事件を起こしたのが、『正社員』か『契約社員』かで、相違が生じることはほとんど考えられません」
今井弁護士はこのように指摘する。もう少しくわしく説明してもらおう。
「今回のような事件が起きた際には、健康被害が生じた場合の賠償責任など、さまざまな責任が発生する可能性があります。
ほかにも、商品回収や謝罪広告などに要した経費についての責任や、取締役等の注意義務に関する責任、株価下落による広い意味での経営者責任など、幅広い責任問題が生じる可能性があるでしょう。
しかし、こうした責任について、事件を起こしたのが『正社員』か『契約社員』かで差が出ることは、まず考えられません」
法的にみた場合、正社員と契約社員とは、何が違うのだろうか?
「そもそも、『契約社員』という言葉は、法令上の用語ではありません。
一般的な言葉としては、定年まで働くことが予定されている『正社員』と比較して、たとえば、『1年間』といったように雇用契約期間が定められ、その後は更新することがある従業員を指すことが多いです。
そう捉えると、会社との法律関係における相違点は、雇用契約の期間が限定されているかどうか、という点だけといえます」
たしかに、単にそれだけの違いなのであれば、事件を起こした際に個人が負う責任の重さや、会社が負う使用者責任にも違いは生じないだろう。
今回のようなケースで、あえて両者の違いを見いだすとすれば、どういった点だろうか?今井弁護士は次のように話していた。
「たとえば、事件の再発防止策を社内的に考えていくという観点であれば、定年まで長く雇用される予定の従業員と、短期間の雇用しか予定されていない従業員とで、管理体制に違いを設けるといったことは、検討に値すると思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html