2014年01月24日 12:30 弁護士ドットコム
自分の名前を出さずとも、気軽に情報発信できるツイッター。だが、その「匿名性」は絶対ではないことが実例で示された。ツイッターで「詐欺師」などと中傷された日本人男性が、投稿者を割り出すために、米ツイッター社へ情報開示を求めて行った仮処分申請が、東京地裁に認められたのだ。
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誰でも、自由に発言を投稿できるツイッターでは、他人を攻撃するような発言も数え切れないほどある。しかし国内においては、ツイッター社から発信者の情報開示がされた例はまだ少ないようだ。今回はどのようにして情報開示にこぎ着けたのだろうか。
原告側代理人を務めた清水陽平弁護士に聞いた。
「そもそもの背景ですが、ツイッターに誹謗中傷が投稿される例は、実は結構多いのですね。
ツイッターに発言を投稿するためには、会員登録を行ってアカウントを作成する必要があります。しかし、登録の際に実名を入力する必要はなく、誰が投稿しているのか、そのままでは判別できません。
また、一人で複数のアカウントを作ることも可能で、スマートフォンや携帯電話用のアプリも充実しているため、誰でも簡単に情報発信ができます。そういったサービスの特徴が、発言内容に対する心理的ハードルを下げているのかもしれません」
清水弁護士はこのように指摘する。それでは、なぜこれまで、情報開示がなされてこなかったのだろうか?
「これまでは、裁判をする際、ツイッター社が米国法人だということがハードルとなっていました。利用規約でも、裁判管轄は米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州の裁判所にある、となっています。
なお、ツイッター社には日本法人もありますが、情報開示の権限がないとされ、訴訟の相手方にはなり得ません」
「もう一つ、関連して、投稿者の情報を突き止めるには『タイムリミット』があります。
投稿者を特定するためには、投稿された媒体先(本件ではツイッター社)からIPアドレス等のアクセスログの開示を受け、さらにそれを手がかりに、プロバイダに契約者の情報開示を求めていく必要があります。
しかし、通常、アクセスログは3カ月程度で削除されていってしまうため、時間がかかりすぎると投稿者を辿れなくなってしまうのです。
日本から米国へは、単に書類を送るだけでも時間がかかり、訴訟もなかなかスムーズにいきません。そうこうしている間にタイムリミットが過ぎ、結局投稿者に辿り着けない、というリスクは少なからずあります」
しかし、今回は日本の裁判所が仮処分命令を出し、ツイッター社が投稿者に関する情報開示を行ったわけだ。なぜ、それができたのだろうか?
「この点に関しては、日本に管轄があるのかという問題と、アクセスログをいかにして確保したのかという問題があります。
前者については、日本で事業展開する海外企業に対して、日本で行っている事業に関する訴訟を起こす場合なら、東京地方裁判所に管轄権がある、という民事訴訟法上のルールを利用しました。
後者については、通常は、実際に投稿をした日時の開示を請求するわけですが、この件については『ツイッターアカウントにアクセスした最新のログ』を開示するように請求し、それを認めてもらっているという解決策をとりました」
なぜそうする必要があったのだろうか?
「実は本件で中傷が投稿されたのは2011年9月ごろからで、仮処分を申し立てた時点で、すでに1年半以上経過しているものもありました。つまり、発言時のアクセスログがツイッター社から開示されたとしても、プロバイダに過去の情報が残されている可能性は低かったですし、仮に残っていてもプロバイダにはその記録が残っていないと思われました。
そこで、『ツイッターアカウントにアクセスした最新のログ』を開示するよう求めたのです。結果的に請求は認められ、2013年8月時点でツイッターアカウントにログインした際のアクセスログ(IPアドレス等)が開示されました。
直近のログですから、プロバイダにもログが残っており、この開示を求めていくことができるということになります」
ツイッターの場合、アカウントと個人が結びついているので、こうした請求が認められ、投稿者の特定にもつながるということだろう。
さて、こうしてツイッター社から最新のIPアドレスが開示されたわけだが、その後はどうなったのだろうか?
「そのIPアドレスを調べたところ、投稿者は日本のあるプロバイダを利用していることが判明しました。そこで今度は、そのプロバイダに対して情報開示を求める裁判を起こし、『情報を開示せよ』という判決をもらいました。
この判決が確定すれば、情報が開示され、投稿者が特定されることになると思われます」
なお、清水弁護士が東京地裁に仮処分申請をしたのは昨年4月で、仮処分命令が出たのが7月。そこからさらにプロバイダに対する訴えを起こして、情報開示を命じる判決が出たのが今年1月16日だということだ。関係者にとっては長い道のりだったと思われるが……。清水弁護士は「これでツイッターの投稿者特定に本格的に道が開けました」と話していた。
もちろん、裁判でツイッター投稿者に関する情報開示が認められるためにはそれなりのハードルがあるわけだが、こうした実例が出てきたことは、頭に入れておいたほうがよさそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
IT法務、特にインターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定に注力しており、平成24年には東京弁護士会の弁護士向け研修講座の講師も担当。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp