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大規模火災で「列車」が止まった――火元は「交通機関」にも損害賠償責任を負うのか

2014年01月20日 16:40  弁護士ドットコム

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新年早々の1月3日朝、東京都のJR有楽町駅近くで火災が発生し、近くを通る東海道新幹線や山手線など多数の列車が運休した。Uターンラッシュのさなかに起きた事故で、多くの帰省客が影響を受けた。


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報道によると、有楽町駅から約50メートル離れたパチンコ店やゲームセンターなど約950平方メートルが燃え、鎮火まで12時間かかった。東海道新幹線では106本が運休し、在来線も含めて約59万人の足に影響が出た。警察は、パチンコ店の運営会社が設置した熱帯魚の飼育水槽の電気配線が火元とみているという。



今回のように大規模な火災が起きると、電車などの交通機関が被害を受けることもある。そのような場合、出火の責任を負った人は、交通機関側からの損害賠償請求にも応じなければならないのだろうか。鉄道にくわしい前島憲司弁護士に聞いた。



●失火の場合の損害賠償責任を制限する「失火責任法」


「火災によって列車が運休したり遅れが生じた場合、鉄道会社には、特急料金の払い戻しや乗客対応の人件費などの『損害』が発生します。



そこで鉄道会社は、民法709条の不法行為責任や民法717条の土地工作物責任を根拠に、火災の責任者に対して、こうした損害の賠償請求をすることが考えられます」



そういった損害賠償請求は、裁判所に認められるものなのだろうか?



「ただし、故意ではない『失火』による火事の場合は、失火責任法という法律で、失火者の責任を追及できる場合が限られていますので、注意が必要です。



民法709条にもとづく損害賠償請求は、失火者に『過失』がある場合に認められます。しかし失火責任法では、失火者に『重大な過失』がない限り、民法709条の適用がないとされているのです」



では、ここでいう「重大な過失」とは何だろうか。



「たとえば、火元となった店舗の従業員が火の不始末をしたとか、ガスをつけっぱなしにしていたなどの事情があれば、重過失が認定できると思いますが、通行人がポイ捨てしたタバコが原因だったような場合は難しいといえるでしょう」



●「誰がどんな責任を負うのか」を特定することが重要


前島弁護士はこのように指摘する。それでは、さきほど話にのぼった「土地工作物責任」はどうだろうか?



「一方、『土地工作物責任』を追及するためには、『土地の工作物の設置保存の瑕疵』がなければいけません。



今回、出火原因は熱帯魚の水槽という報道もされていますが、熱帯魚の水槽が『土地の工作物』だと言える場合は、かなり限定されるでしょう。



さらに、失火責任法の適用範囲については解釈上の争いがあり、土地工作物責任についても、失火責任法を適用すべきだという説もあります。したがって、たとえ水槽の管理に手落ちがあっても、失火責任法が適用されて免責されるという結論もあり得ます」



こちらについても、色々な条件が付いている。結局のところ、一概に議論するのは難しく、事実を詳細に見ていく必要があるようだ。前島弁護士も「結論としては、損害賠償が認められるケースもあり得るでしょうが、その前に、誰がどのような根拠で責任を負うのか、特定する作業が重要になるでしょう」と話していた。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
前島 憲司(まえじま・けんじ)弁護士
横浜弁護士会・就業問題対策委員会委員。裁判所書記官として10年以上勤務した経験がある。鉄道模型や全国の鉄道を乗りつぶすことが趣味。中国、インド、キューバなど海外に蒸気機関車の写真を撮りに行ったことは10回以上。
事務所名:弁護士法人前島綜合法律事務所
事務所URL:http://www.law-maeken.jp