2014年01月16日 12:40 弁護士ドットコム
アフリカ中部のコンゴ民主共和国で昨年6月、日本大使館が半焼した事件は、当時大使館に3等書記官として勤務していた外務省職員が現住建造物等放火罪で起訴されるという衝撃の展開を見せている。
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報道によると、大使館からは公金2200万円相当がなくなっており、会計担当だった職員が着服を隠す目的で放火したとみられているようだ。
今回の事件では、日本の警察が現地で捜査を行ったうえで、帰国していた職員を日本で逮捕したと報じられている。海外で行われた犯罪でも、日本の法律が適用され、日本で裁判が行われる場合があるのだろうか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。
「日本の『刑法』は、『属地主義』を基本としています(刑法1条1項)。日本国内での犯罪行為については、日本国籍の有無を問わず、日本の刑法が適用されます。
一方、日本国民が国外でした行為については、日本の刑法は基本的には適用されません」
萩原弁護士はまず、このように述べる。しかし、これには例外もあるようだ。
「たとえば、現住建造物放火罪(刑法108条)や殺人罪(刑法199条)、業務上横領罪(刑法253条)のような一定の重大犯罪については、『属地主義』を補充する趣旨で『属人主義』がとられています。つまり、日本国民であれば、国外でこうした犯罪行為をした場合にも、日本の刑法が適用されるのです(刑法3条)。
本件の被告人は日本人ですので、実際に有罪であるなら、『属人主義』により、刑法108条が適用されます」
それでは、これに当てはまるような場合であれば、日本の警察が出向いていって、捜査や逮捕ができるのだろうか?
「刑法が適用されるかどうかという話と、刑事手続きを定めた『刑事訴訟法』が適用されるかどうかは別の話ですので、別個に考えなくてはなりません。
日本の『刑事訴訟法』の適用範囲は、日本の主権の及ぶ日本国領域内に限られています。したがって、刑法3条によって日本『刑法』が適用される場合であっても、国外にいる者に対し、逮捕や勾留等の処罰のための手続を行うことはできません。
実況見分等の任意の捜査についても、捜査が大使館の敷地外に及ぶ場合には、当該国の了承が必要となります」
そうなると、犯人が国外にいるケースなどは、一般的にはどんな手続きがなされるのだろうか。
「日本の捜査機関が、国外にいる人の処罰を行おうとするときは、犯罪人の引き渡しの問題が起きます。引き渡しは、当該国との間で条約がある場合もあるし、個別的な折衝による場合もあります。
今回の場合は、被疑者が帰国していたので、こうした点に関係なく、逮捕が可能になったということです」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
刑事弁護を中心に、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件、欠陥住宅訴訟その他の各種損害賠償請求事件等の弁護活動を埼玉県・東京都を中心に展開。
事務所名:大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/