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探偵が調べた個人情報が「ストーカー殺人」に利用されたら・・・探偵の責任は?

2014年01月13日 14:00  弁護士ドットコム

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シャーロック・ホームズに明智小五郎、江戸川コナン・・・漫画や小説に登場する探偵は、かっこよくて正義感にあふれている。だが、現実の世界では素晴らしい探偵ばかりとはかぎらない。2012年11月に起きた「逗子ストーカー殺人事件」の約1年後、重要な役割を担った可能性のある「探偵」が、別の事件で情報を不正入手した容疑で警察に逮捕されたのだ。


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逗子ストーカー殺人事件では、殺人を犯したとされる男が事件直前、この「探偵」らを介して、被害女性の住所を入手したとされている。捜査機関は、被害女性の住所が逗子市職員から「探偵」に伝わったとみているようだ。


実際の探偵の仕事の多くは、人探しだという。生き別れになった兄弟を探し出せば美談だろうが、犯罪に利用される可能性もある。探偵が調べた「個人情報」が犯罪に利用された場合、その探偵に法的な責任は生じるのだろうか。個人情報保護の問題にくわしい齋藤裕弁護士に聞いた。


●探偵は「依頼者の目的」を具体的に確認すべき

「そもそも、不正な手段で個人の住所を割り出し、それを第三者に提供したとすれば、探偵にはプライバシー侵害の損害賠償責任が生ずる可能性があります」


齋藤弁護士はこのように切り出した。それでは、もし不正に割り出された情報が、ストーカー行為などに「悪用」された場合は、どうだろうか?


「もし探偵に、その住所がストーカー殺人行為に利用されると予見できる可能性があったならば、殺害による損害について、賠償責任が生ずる可能性もあります」


民事上の損害賠償についての話だが、どの程度の認識があれば責任が生じるのだろうか?


「裁判例上、この『予見可能性』は、容易には認められません。


しかし、『興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置の特例に関する指針』では、依頼者がストーカー目的で個人情報を利用するおそれがあるときには、興信所業者(探偵業者)は個人情報の取扱いをしてはならないとしています。


ストーカー殺人が多く発生してきていることも踏まえると、探偵としては、依頼目的を具体的に確認すべきだと言えるでしょう。そして、依頼者の説明が不自然なのに依頼を受けた場合などは、殺害につながった点についても、民事上の損害賠償責任を追及される可能性があるように思います」


それでは、探偵の「刑事責任」についてはどうだろうか?


「不正に個人情報を入手することそのものは、不正競争防止法が禁じる『不正情報取得』にあたる可能性があります(10年以下の懲役または1000万円以下の罰金)。


一方、提供した情報が殺害に利用されたという場合、殺人のほう助等が問題となりますが、それが成立するためには、殺人行為がなされると事前に認識していたことが必要です。具体的な殺害計画を知ったうえで情報を提供した、というような極端なケースでなければ、殺人ほう助は成立しない可能性が高いと思います」


齋藤弁護士はこのように締めくくっていた。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブルハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:新潟合同法律事務所
事務所URL:http://www.niigatagoudou-lo.jp/