2014年01月11日 15:20 弁護士ドットコム
海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」の乗組員が10年前に自殺した問題で、「いじめを示す調査文書が隠されている」と内部告発した40代の3等海佐に対し、海自が懲戒処分の手続きを始めたと、朝日新聞が昨年12月に報じた。
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同紙によると、2004年に自殺した乗組員の遺書には、先輩からの暴行・恐喝の事実が記されていた。海自は自殺直後、「たちかぜ」乗組員にアンケートを実施したが、その翌年に情報公開請求した遺族に「破棄した」と回答した。資料隠しを知った3佐が08年、防衛省の公益通報窓口に告発。海自が隠ぺいを認めて謝罪したのは、4年後の12年だった。
ところが昨年6月、この3佐のもとに海自から懲戒処分手続き開始を通知する文書が届いた。告発時に、証拠として関連文書のコピーを自宅に保管していたことが、規律違反になるというのだ。
「公益通報者保護法」は、組織の不正をただそうと内部告発をした人を守るため、告発を理由に解雇や不利益な取り扱いを禁じているはずだが、こうした処分は許されるのだろうか。公益通報者保護制度にくわしい山本雄大弁護士に聞いた。
「公益通報などのため、内部資料をコピーして持ち出す例は、他にもあります。持ち出し行為を理由として行われた懲戒処分の有効性等が争われた裁判も、これまでに複数存在します」
やはり、公益通報については、資料の持ち出しが問題となることはあるようだ。裁判のポイントはどんな点だったのだろうか?
「資料の内容や持ち出し行為等の態様、告発の重要性等が考慮されたうえで、持ち出しは正当な告発に不可欠の行為である、または持ち出し行為の違法性が大きく減殺される、などとして懲戒処分が無効とされた判例もあります。中には懲戒処分をした側に対して、損害賠償が命じられた例もありました。
公益通報者保護法には、直接的に内部資料の持出し行為を保護する規定はありません。しかし、同法施行後の判例でも、『公益通報のために必要な証拠書類の持ち出し行為も、公益通報に付随する行為として同法による保護の対象となる』としたものがあります。その判決では、持出し行為自体をとらえて、服務規律違反等として解雇その他の不利益取扱いを行うことができないと判断したのです(神戸地裁判H20.11.10)」
今回報じられている海自のケースは、どのように考えるべきなのだろうか?
「今回の持出し行為がどう評価されるかにもよりますが、こうした判例に照らし合わせて考えれば、仮に海自が懲戒処分をした場合、その処分は公益通報者保護法が禁止する『不利益取扱い』に該当するか、懲戒権の濫用にあたるとして、無効となる場合もあるでしょう。
さらに、場合によっては、違法な懲戒処分をしたとして、海自側が損害賠償責任を負う可能性もあるでしょう。
いずれにしても、海自の対応は、公益通報者保護制度の趣旨を理解せず、自浄能力を低下させてしまう結果となりかねない内容です」
山本弁護士はこのように指摘し、憂慮していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山本 雄大(やまもと・たけひろ)弁護士
1995年弁護士登録(大阪弁護士会)、欠陥商品被害救済を中心に消費者問題に取組む。公益通報者保護についても法制定時から取組み、内閣府消費者委員会に設置された公益通報者保護専門調査会では委員を務めた。
事務所名:藤巻・山本法律事務所