2014年01月09日 13:10 弁護士ドットコム
今春就職する予定の学生のなかには、すでに「内定者研修」を受けている人もいるだろう。だが、もしその内容が過酷なうえ、参加費用が「自己負担」だったら、あなたはどうするだろうか?
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あるネットのQ&Aサイトに、内定研修の費用を自己負担させられたという大学4年生の相談が寄せられている。投稿によると、研修場所は内定先の不動産会社の合宿所。2泊3日で行われ、90人が参加したという。
「軍隊のような怒号を浴びながらマラソンをする」「通行人のいる駅前で、入社後の目標を叫ぶ」といった過酷な内容だった。さらに会社は、「社員ではなく内定者」という理由で、研修費用3万円の自己負担を求めてきた。
内定者研修は会社の都合で行われるのだから、むしろ「手当」があってもいいくらいだ。それなのに、今回の相談のように会社から「費用負担」を求められた場合、支払いを拒否したり、支払った研修費を返還請求したりできるのだろうか。井堀哲弁護士に聞いた。
「業務開始日前に業務命令に服する義務はありません。したがって、内定者が入社前研修に参加する義務はありません。研修に参加しなかったことを理由にした内定取消を、違法とした裁判例もあります」
法的なルールについて、井堀弁護士はこう説明する。しかし、その一方で、「内定者が入社前研修を拒否することは、事実上困難です」とも述べる。
たしかに、内定者研修に出なければ、入社前から目を付けられることになる。実際問題として、よほど特別な事情でもないかぎり、断ることはできないだろう。そうなると、費用について自費というのは不合理な気がするが……。
「研修費用をめぐる裁判は、『研修費用は会社持ちだが、入社後一定期間勤務しなかった場合には、受けた側に負担してもらう』という合意は有効か、という形で争われるケースが多いです」
企業側の視点でいうと、「すぐに会社を辞めるなら、研修費用を会社に返せ」と、内定者に約束させられるか、という裁判のようだ。「お金を払って研修を受けさせてあげたのに、すぐに辞められたら費用がもったいない」ということだろう。
こうした裁判では、どのような点がポイントとなるのだろうか?
「その研修が、(1)労働者の自由に委ねられておらず、(2)本人の受ける利益も小さく、(3)業務の一環と評価され、(4)研修後の労働者に対する拘束が強い場合には、労働基準法16条(損害賠償額の予定の禁止)に違反するとして、おおむね合意の効力が否定され、会社側の研修費償還請求が退けられています。
したがって、研修が義務的なもので、本人の受ける利益も小さく、しかも研修内容と業務との関連性が強い場合には、内定者ではなく、会社側が研修費を負担すべきと考えるのが、実務の潮流といってよいでしょう」
つまり、(1)~(4)に当てはまるような場合であれば、研修費用は企業側が払うべきと考えられているようだ。今回相談されていたようなケースは、どうだろうか? 井堀弁護士は次のように結論づけていた。
「今回のケースは、会社側が研修費を負担すべき事案と考えられます。法的には、支払いを拒否したり、既払い研修費の返還を請求できる可能性が高いでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
井堀 哲(いぼり・あきら)弁護士
1969年生 中央大学法学部卒 第二東京弁護士会所属 同会人権擁護委員会委員長 日本労働弁護団員(労働相談ホットライン相談員) 介護労働ホットライン実行委員会共同代表 東京家庭裁判所(立川支部)調停委員
事務所名:TOKYO大樹法律事務所
事務所URL:http://www.tokyotaiju.com/