2014年01月06日 22:00 弁護士ドットコム
会社のパソコンからGmailなどのフリーメールにアクセスし、「私用メール」を送った経験がある人は少なくないかもしれない。だが、その頻度や時間帯には注意したほうがよさそうだ。市役所のパソコンを使って、1年3カ月のあいだに約1万5000通もの「私用メール」を送受信していた公務員が、懲戒処分を受けるというケースが昨秋、あったからだ。
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報道によると、処分を受けたのは、宝塚市役所に勤めていた50代の男性職員。大量のメールは不動産売買に関する内容で、マンション買い付け指示や入金確認などを行っていたという。この男性職員は妻が代表を務める不動産会社2社の取締役を兼ねていたほか、太陽光発電と不動産事業を行う会社を自ら設立していた。
頻繁にメールを打つ様子を不審に思った上司が人事課に相談し、内部調査で私的利用が分かった。同市は送受信に要した時間を算出し、その時間分を勤務していなかったとみなして約42万円の返納を求めた。男性職員は不動産会社を事実上運営し、勤務時間中にメールで商談をしていたとして11月下旬、停職6カ月の懲戒処分を受け、依願退職したという。
これはかなり極端な事例だが、仕事中に携帯やパソコンで私用メールをしたことがある人は少なくないだろう。こうした私用メールは、処分の対象となりうるのだろうか。許容範囲があるとすれば、どこまでだろうか。労働事件にくわしい古川拓弁護士に聞いた。
「一般的に、労働者には仕事に専念する義務がありますので、勤務時間中に私用メールをする行為は、この義務に違反する可能性があると言えます」
古川弁護士はこのように指摘する。やはり、仕事中に私用メールを送る行為が、一般的に許されているとは言えないようだ。そうなると、仕事中の私用メール送信が見つかったら、処分されてもやむを得ないのだろうか?
「仮に義務違反であるとしても、当然に『処分』をしていいかどうかは別です。使用者が労働者を『処分』するためには、さまざまな要件を満たすことが必要です」
古川弁護士はこのように指摘する。具体的にはどんな要件があるのだろうか?
「まず、主要なものから3つ挙げます。
(1)どのような行為が『処分』の対象となり、どのような『処分』を受ける可能性があるのかを就業規則で定めた上で、あらかじめ労働者に周知されていること。
(2)実際に行われた問題行為が、実質的に見ても、『処分』を受けるにふさわしい行為であること。
(3)実際の『処分』内容、つまり『処分』の種類や程度が、社会一般の常識からしてもふさわしいこと」
このあたりが、従業員を処分する際の、重要な原則となっているようだ。なお、この中でも一番問題になることが多いのは(3)だという。
「『処分』の種類には、懲戒解雇や諭旨解雇、降格や出勤停止、あるいは減給などといった重いものから、譴責・戒告などといった比較的軽いものまでさまざまありますが、過度に重い『処分』は、ふさわしくないとして無効になる可能性があります。
特に、職を失う懲戒解雇や諭旨解雇については、仕事に直接関係した重大な犯罪行為がなされたとか、これまで重いものも含め何度も『処分』を受けたが全く改善がないなどといった、その処分でなければどうしようもない場合でない限り、極めて限定的になされるべきです」
なお、古川弁護士によると、要件は他にもあるという。
「また、(4)問題行為が行われた後で規則を定め、過去にさかのぼって『処分』することはできませんし、(5)同じ行為を根拠に2回以上『処分』することもできません。さらに、(6)過去のケースや他の労働者と平等に扱う必要がありますし、(7)『処分』の手続きを規則で定めている場合は、それにのっとった手順(手続き)が踏まれる必要があります」
処分はきちんと、フェアに行われる必要があるということだろう。こうした話を踏まえると、仕事中に私用メールを送っても、それが常識の範囲内なら、いきなりクビになることはなさそうだが……。
古川弁護士は、「もし労働者の方が『処分』を受けてしまった場合、それが重い処分であればなおさら、一度は労働事件にくわしい弁護士にご相談になり、ご自身の処分がふさわしいものであるかご検討なさることをお勧めします」とアドバイスしていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
古川 拓(ふるかわ・たく)弁護士
らくさい法律事務所代表。2004年弁護士登録。京都弁護士会・過労死弁護団所属。特に過労死・過労自殺・労災事故などの労災・民事賠償事件に力を入れ、全国から多数寄せられる相談や事件に取り組んでいる。
事務所名:らくさい法律事務所
事務所URL:http://rakusai-law.com/