2014年01月06日 14:00 弁護士ドットコム
今年も就活シーズンがやってきた。大学での就活ガイダンスや教室に飛び交う就活情報、迫りくる就活ムードに戦々恐々としている大学生も多いだろう。
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就活といえば、どの企業でもまず必要になるのが「履歴書」である。厳しい選考を勝ち進んで内定をつかむためにも、最初の書類選考は落としたくないところだ。しかし、そう意気込んで書き進めてみても、「資格」や「免許」も持っていないし、アルバイトの経験がないから「職歴」の欄に書けるものが何もない――そんな空欄だらけの履歴書を見つめて不安になる就活生もいるのではないか。
そんなとき、「せめて何かアルバイトをしていたことにしてしまおう」と悪い気持ちが浮かんでしまうことがあるかもしれない。もし履歴書にウソの経歴や持っていない資格を書いてしまったら、何か法律に触れるのだろうか。また、入社後にウソの記述が発覚したら、どうなってしまうのだろう。小池拓也弁護士に聞いた。
「主として問題になるのは、重大な経歴詐称が懲戒解雇の事由になりうることです。どのような場合に経歴詐称が重大と評価されるかは、ケースバイケースです」
小池弁護士はこのように切り出した。具体的にはどんなケースで懲戒解雇が認められ、または認められなかったのだろうか?
「Java言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず、経歴書に多数の会社でプログラム開発に従事し、Java言語のプログラミング能力があるかのような記載をして、採用時の面接においても同様の説明をしたというケース(東京地裁平成16年12月17日判決)では、職歴詐称で懲戒解雇が認められました」
「一方、同じ職歴詐称でも、5社におよぶ転職のうち、C精肉店、D事務所、F工業における勤務を職歴欄に記入しなかったという例では、懲戒解雇は認められませんでした。
このケースでは、記入しなかった勤務がいずれも2カ月から6カ月の短期間だったこともあり、その労働者の『港湾荷役作業職員としての資質、能力の評価に関する重要な経歴を詐称したものとはいえない』と判断されました。(福島地裁いわき支部昭和59年3月31日判決)」
こうした判断をみると、単に経歴を詐称したことだけではクビにまではならないが、詐称した部分が仕事にどれだけ重大な影響を及ぼすかが、考慮されているように思える。
職務経歴以外でウソをついた場合はどうだろうか?
「学歴詐称については、労働者が大学中退なのに高卒と履歴書に記載し、採用面接の際にも同様のことを述べたことが、懲戒解雇事由にあたると判断されたケースがあります(最高裁第一小法廷平成3年9月19日判決)。この会社では、旋盤工やプレス工については、職務内容および他の従業員の学歴との釣り合いのため、募集条件を高卒または中卒の者としていました」
このほかにも、履歴書の「ウソ」で懲戒解雇された事例があるという。
「東京地裁平成22年11月10日判決では、実際には名誉棄損罪で服役していたのに、その期間に渡米して、経営コンサルタント業務に従事していた旨および『賞罰なし』と虚偽の記載をした履歴書を提出したことが、懲戒解雇事由として認められました。
一方、仙台地裁昭和60年9月19日判決では、『刑の消滅(刑法34条の2)を来たしている前科の不告知や、労働力の適正な評価に影響しない学歴の詐称等』は、懲戒解雇事由にあたらないとされました」
なお、「刑の消滅」は、ざっくりと説明すると、刑が終わったり免除されたりした後、何事もなく一定期間が過ぎたら、いわゆる「前科者」とは見なされなくなるという制度だ。
こういった事例をみていくと、ひとことに履歴書のウソといっても、いろいろと考慮すべきポイントがあることがわかる。小池弁護士は次のように締めくくっていた。
「まとめると、経歴詐称が能力評価や会社組織内の位置づけに影響する場合は、懲戒解雇が有効とされる傾向があります。特に、労働者の現在の行動と関連がある過去の問題を秘匿した場合には、その傾向は強いと思います。
一方、能力評価や組織内の位置づけに関係しない経歴詐称、とくに労働者の現在の行動と関連がない過去の問題については、懲戒解雇は無効とされる傾向があります」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html