2014年01月05日 14:10 弁護士ドットコム
男性社員にも「育児休暇(育休)」を義務化した会社が話題になっている。ユニークな育休制度を導入したのは、愛媛県八幡浜市の菓子製造会社「株式会社あわしま堂」。報道によると、同社は昨年12月16日から、男性社員も含めた全社員に対して、最低5日間の育児休業の取得を義務付けた。育休をとった場合、最初の連続5日間が有給扱いになるという。
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同社では、女性社員の育休取得率が100%だったのに対し、男性社員は5.9%にとどまっていたことから、「意識改革」のためにこの制度を導入したようだ。
だが、世の中には、パパが休んで育児をするよりも、働いてお金を稼いでほしいと考える家族もいるかもしれない。このあわしま堂の場合、育休を取らなくても罰則はないということだが、会社による「休暇の義務化」は問題ないのだろうか。田村ゆかり弁護士に聞いた。
「育休については、育児・介護休業法に『1歳未満の子を養育する男女労働者は、その子が1歳になるまでの期間を特定して育児休業を事業主に申し出ることができる』(同法5条1項)と定められています。
事業主は、経営困難や事業繁忙など、どのような理由があっても、要件を満たした労働者の育休の申出を拒むことはできません(同法6条1項、施行通達)」
働く側からみれば、「育休を取る権利」が法律で認められているわけだ。ただ、子育てにはお金もかかる。休んでいる間の賃金はどうなるのだろうか?
『育休中の賃金については、法律では特に定められておらず、労働契約や、就業規則または労働協約の定めによります。
ただ、雇用保険の一環として、休業開始前の賃金の50%(当分の間)が育児休業給付として支給されるという制度はあります」
田村弁護士はこのように指摘する。そうなると、「必ず休みなさい。ただしお金は払いません」という命令も、理論的には可能になるということだろうか?
「問題は、就業規則を変更し、育休を従業員に義務付けることが可能かどうかということですね。
あわしま堂の場合には、義務付けの期間が5日間と短いこと、有給扱いで賃金が支払われること、育休を取らなくても罰則はないことなどから、不利益変更とは言えず、問題ないと思われます。
ただし、育休義務化の内容によっては、問題となることもあるでしょう」
問題となるのは、具体的にはどういうケースだろうか?
「たとえば、全従業員に対して、子が1歳になるまで6か月間の育休を義務付け、育休中は無給とした場合、従業員は給付金を受け取ったとしても賃金の50%の収入しか得られないこととなります。
これは就業規則変更による労働条件の不利益変更に当たり、(1)事業主と従業員が『合意』すること(労働契約法8条)、または(2)就業規則の変更が『合理的』な場合に従業員に『周知』すること(同法10条)という要件を満たさなければ、有効とならない可能性が高いと思われます」
田村弁護士はこのように指摘していた。
会社で育休の義務化を議論する際には、こうした点にも配慮したうえで、労働者の不利にならないように行う必要がありそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
沖縄県那覇市において、でいご法律事務所を運営。
平成25年度沖縄弁護士会理事。同年度沖縄県包括外部監査補助者。経営革新等支援機関
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/