2014年01月01日 14:00 弁護士ドットコム
医師による「安楽死」が合法とされているオランダで、「安楽死専門のクリニック」が話題になっている。クリニックは行政の中心都市デン・ハーグにあり、患者の自宅に医師を派遣して、投薬による「安楽死処置」をするサービスを行っているという。
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同国でも、安楽死処置を行った医師が刑事罰を免れるためには、「患者の苦痛が永続的で、耐えがたい」など、様々な条件をクリアする必要がある。それでも、あるレポートによれば、2005年から2010年にかけて死亡した患者のうち、安楽死を要請した人の割合は4.8%から6.7%に増え、安楽死を容認する医師の割合も37%から45%となった、と報告されている。
日本でも「いかに死ぬか」への意識は高まりつつある。安楽死を望む声も時折聞かれるが、こうした「安楽死専門クリニック」が日本で開業される可能性はあるのだろうか。金子玄弁護士に話を聞いた。
「わが国では、現行法上、安楽死専門クリニックの開業は困難でしょう」
どうしてだろうか?
「『安楽死』には、『間接的安楽死』、『消極的安楽死』、『積極的安楽死』の3類型があります。投薬による安楽死処置は、このうち積極的安楽死にあたります。
この積極的安楽死は、直接的に患者の生命を短縮することから、形式的には殺人罪(刑法199条)ないし嘱託・承諾殺人罪(刑法202条後段)に該当します。
このため、現行法上で合法的に積極的安楽死を行うためには、何らかの理由によって『違法性がない(違法性が阻却される)』と認定される必要があります」
積極的安楽死について、「違法性がないと判断されるための基準」はあるのだろうか?
「名古屋高裁・昭和37年12月22日判決は、以下に挙げる6つの要件があれば『違法性が阻却される』と判断しました。この裁判例は以後、基準として機能しています。
(1)病者が現代医学の知識と技術から見て不治の病におかされ、しかもその死が目前に迫っていること
(2)病者の苦痛が甚だしく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものとなること
(3)もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと
(4)病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託・承諾のあること
(5)医師の手によることを原則とし、医師により得ない場合には特別の事情があること
(6)その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものであること」
ずいぶん古い判決だが、基準はいまでも変わらないのだろうか?
「比較的新しいものでは、横浜地裁・平成7年3月28日判決が、次の4要件により、違法性阻却要件を判断しています。
(a)患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること
(b)患者の死期が迫っていること
(c)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がないこと
(d)生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること」
日本にも安楽死についての基準は存在するものの、あくまで、こうした条件が全て満たされたごく例外的な場合にのみ、問題がなくなるという判断のようだ。実際に医師が処置を行うためには、安楽死が社会的に容認されたうえで、法律やガイドラインが整備されるなど、超えるべき様々なハードルがあるということだろう。
安楽死が広がるオランダでの動きを、金子弁護士はどうみているのだろうか?
「オランダでは、1980年代から積極的安楽死を巡る議論・実態調査を踏まえて、2001年4月には安楽死を合法化する刑法改正に至りました。
ただし、そこに至る社会的背景として、ホームドクター制度の充実、インフォームドコンセントの徹底、医療保険制度の整備等が存在することを見逃してはいけません」
やはり、社会の前提が違う点が大きいのだろう。日本でも今後、安楽死を巡る議論が進む可能性はあるのだろうか? 金子弁護士は次のように締めくくっていた。
「社会的背景が異なるわが国では、オランダでの実例をそのまま斟酌することはできませんが、患者の自己決定権の尊重の風潮は年々高まっています。立法化の必要も含め、積極的安楽死を巡る議論の深化が望まれるところです」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
金子 玄(かねこ・げん)弁護士
第一東京弁護士会成年後見委員会副委員長、日弁連高齢者事業対策本部委員。相続・遺言・後見等の高齢者に関する業務全般には特に力を入れている。医療問題にも明るく、病院・歯科クリニック等の医療関係の顧問先の相談も手掛けている。
事務所名:慶福法律事務所
事務所URL:http://www.keifuku-lawoffice.com/