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GHQから批判されていた「絞首刑」 日本の死刑執行の方法は「非人道的」なのか

2014年01月01日 12:30  弁護士ドットコム

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死刑執行の方法として日本でいまも行われている「絞首刑」について、GHQ(連合国最高司令官総司令部)が1949年に「非人道的だ」と批判していた――こんな史実が、関西大学の永田憲史准教授の調査でわかり、話題になっている。


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日本の死刑は、「刑事施設内において、絞首して執行する」(刑法11条)とされているが、絞首刑に対しては、「受刑者に不必要な苦痛を与えることになる」という批判がある。


永田准教授はツイッターで「アメリカでは19世紀終わりに絞首刑の問題性が議論され、電気椅子が導入されました(現在は薬物注射が主流)。1940年代になってもなお窒息させて殺害するタイプの絞首刑を漫然と執行していた日本に対してそのやり方を改めさせなければと考えられたようです」とコメントしている。



GHQの指摘からすでに60年以上が経ってしまっているが、そろそろ「絞首刑」という執行方法を改めるべき、と言えるのだろうか。京都大学法学部の高山佳奈子教授(刑法)に聞いた。



●死刑は合憲だが、「残虐な刑罰」は違憲


「日本の最高裁判所は従来、『死刑は憲法に違反しない』としてきました」



高山教授はこのように述べる。



「その理由は、憲法31条が『何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない』と定めており、『生命を奪われること』も刑罰の中に含めているから、というものです。



しかし、最高裁はすべての死刑を是認しているわけではありません。たとえば『火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑』は、憲法36条の『残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる』とする規定に違反するとしています」



死刑は認めるけれども、残虐な方法はダメ、というのが最高裁のスタンスのようだ。絞首刑が残虐だと見なされる余地はあるのだろうか。



「最高裁は、『死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬ』(最高裁判所大法廷昭和23年3月12日判決・最高裁判所刑事判例集2巻3号191頁、最高裁判所のウェブサイト http://www.courts.go.jp/ で閲覧可能)としています」



どういう意味だろうか?



●「絞首刑はもはや非人道的」という評価はありうる


「最高裁の言葉をかみ砕くと、『残虐な刑罰』の定義は、時代と環境によって変わるということです。



これを前提にすると、人道上の評価や科学的知見の発展によって、かつては残虐でないとされた執行方法が、今後『残虐な刑罰』とされることもありうることになります」



絞首刑については、日本での議論はどうなっているのだろうか。



「日本では、死刑に関する議論は、これまで、『存置か廃止か』の争いにのみ集中してきました。



しかし、諸外国では、死刑廃止の全世界的な潮流があるほかに、執行方法をできるだけ苦痛の少ないものに改善する試みも重ねられてきています。



現在の科学と国際的潮流から見た場合、もはや絞首刑という明治時代の方法は非人道的になっているとの評価は、十分にありうるでしょう」



高山教授はこのように結論づけていた。これをきっかけに、死刑の執行方法についても、より幅広い議論が巻き起こることを期待したい。



【取材協力】


高山 佳奈子(たかやま・かなこ)京都大学法学部教授(刑法)


1968年生まれ、1991年東京大学法学部卒業、1993年同修士。東京大学助手、成城大学専任講師、ドイツ・ケルン大学客員研究員等を経て、2002年より京都大学助教授、2005年より現職。国際刑法学会事務総長補佐、日本刑法学会理事。


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