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悲惨な餓死や孤立死が続出する?「生活保護法」の改正で何が起こるのか

2013年12月31日 12:30  弁護士ドットコム

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特定秘密保護法で揺れた臨時国会。その陰に隠れるようにして、「改正生活保護法」がすんなりと成立した。


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改正法では、不正受給に対する罰金の上乗せや申請の厳格化と併せて、扶養義務も強化されている。報道によると、扶養義務者は扶養を断ると、自治体から説明を求められるようになるうえ、収入や資産状況を調査される可能性があるという。



親族の助け合いが大切とはいえ、負担が増えるのは間違いない。扶養義務者は、経済条件さえ満たされていれば、どんな相手でも必ず扶養しなくてはならないのだろうか。一方、生活保護希望者からすれば、親族に負担をかけるのは負い目を感じるところだ。扶養義務の強化によって、生活保護が申請しづらくなるなどの問題はないのだろうか。日弁連貧困問題対策本部の事務局員を務める吉田雄大弁護士に聞いた。



●扶養義務を負っている人への「照会」が大幅に強化


「今回の法改正によって、生活保護が行き渡らず、全国で悲惨な餓死・孤立死が続出することが強く懸念されます」



吉田弁護士は語気を強める。いったい、どうしてそうなるのだろうか?



「改正法が施行される前の生活保護実務では、生活保護申請がなされると、福祉事務所が扶養義務者に対して『扶養照会文書』を送付し、『扶養が可能だ』という返答があれば具体的な仕送り額についてさらに調査等を行う、という手順をとることとされていました。



もし扶養義務者から返答がなかったり、あるいは『扶養できない』との回答があれば、福祉事務所の調査は打ち切られるのが通常でした」



法改正では、どのような変化があったのだろうか?



「今回の改正法では、扶養義務を履行していないと認められる扶養義務者に対して、保護開始決定前に書面による通知が行われる(生活保護法24条8項)ほか、福祉事務所は扶養義務者に報告を求めたり(28条2項)、扶養義務者の氏名・住所・資産・収入等について、官公署や日本年金機構、共済組合、金融機関、雇用主等へ照会したり(29条1項2号)できることになりました。



官公署や日本年金機構、共済組合には回答義務も課せられています(29条2項)。これはすなわち、扶養義務者の納税額や年金額はもとより、場合によっては預貯金や給料等も明らかにされる可能性があるということです」



●生活保護申請を断念する人が続出する


より、厳格な調査が行われるということだが、それのどこが問題なのだろうか?



「ある日突然、福祉事務所からの扶養照会で、収入・資産が丸裸にされ、『自分が親族を見捨てたから』保護開始決定がなされるかのような書面が届いたら、どういう気持ちになるでしょうか?



あわてて生活保護を申請した親族に連絡し、申請を取りやめさせようとする方が続出することは目に見えています。



逆に、生活保護申請をする側でも、これまで以上に親族に迷惑がかかるとして、断念する方が続出するでしょう」



しかし、親族などにはそもそも「扶養義務」があるのでは?



「未成熟の子に対する親の扶養義務や夫婦間の扶養義務を除いた『親族間の扶養義務』は、自身の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえで、なお余裕があれば援助する義務を負うに過ぎない(生活扶助義務)とされています。



また、そもそも日本の制度では、『扶養義務』を負う人の範囲が、諸外国に例をみないほど広く、夫婦・直系血族や兄弟姉妹のみならず、場合によっては三親等内の親族にまで、しかも現実に共同生活を送っていない親族も、扶養義務の対象となります(民法752条、877条1項・2項)。これは、社会の実態に合いません」



●まん延する違法な窓口対応


対象が幅広いことに、どんな問題があるのだろうか?



「幅広い対象に扶養照会が行われるということは、たとえば疎遠になっている親きょうだい、子ども、親族に対しても、『自分は生活保護を利用するほど生活に困窮している』ということを知らしめることになります。



これだけでも、生活保護の申請をためらわせる極めて高いハードルになります。



だからこそ、これまでも、『できることなら家族や親戚に惨めな状況を知られたくない』という保護申請者の気持ちを巧みに揺さぶることによって、違法な『水際作戦』が行われてきたのです」



水際作戦とは何だろうか?



「水際作戦とは、保護申請を断念させるために行われている、違法性の高い窓口対応のことです。



たとえば、日弁連が2006年6~7月に実施した全国一斉生活保護110番では、福祉事務所に行ったことがあるという相談180件のうち、少なくとも118件(約65.6%)のケースにおいて、違法性の高い対応が認められました。



なかでも最も多かったのが、『扶養義務者に扶養してもらいなさい』と対応されたという事例で、49件にのぼっています」



国による保護よりも、扶養義務者による扶養を優先させる仕組みになっているのでは?



「扶養義務者による扶養は、生活保護の要件ではありません。



生活保護法4条2項は、『民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われる』として、私的扶養が生活保護に優先する旨の規定があります。



しかしこれは、生活保護受給世帯が現実に仕送り等を受けた場合に、その金額を収入として認定して、その分だけ保護費が減額されるという意味に過ぎません」



●さらに深刻な事態に……


法改正前からこうした状況があり、生活保護が行き届いていないとすれば、法改正後はどうなってしまうのだろうか?



「たとえば、大阪市は2013年12月12日、生活保護受給者の親族のなかに市の職員がいる場合、『独自の目安』となる金額を定めた仕送りを、職員に求めていく方針を発表しました。改正法の先取りともいえるこの方針発表の狙いが、生活保護申請の抑制にあることは明らかです。



生活保護の捕捉率(生活保護を受給する条件をみたしている方のうち、実際に生活保護を受給している人の割合)は、たかだが2割程度と言われています(『生活保護『改革』ここが焦点だ』(2011年、あけび書房)によれば15.3~18%)。



こうした水際作戦などの結果、すでに餓死・孤立死事例が続出しています(1987年・札幌市白石区、2005年・北九州市八幡東区、2006年・北九州市門司区など)。今後、これ以上生活保護が抑制されれば、より深刻な事態になることが強く予想されます」


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
吉田 雄大(よしだ・たけひろ)弁護士
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。このほか、日弁連貧困問題対策本部事務局員など。
事務所名:あかね法律事務所
事務所URL:http://www.akanelawoffice.jp/