2013年12月29日 13:30 弁護士ドットコム
NHKのドキュメンタリー番組に出演した台湾先住民族の女性らが「名誉を傷つけられた」などとしてNHKを訴えた裁判で、東京高裁は11月下旬、100万円を支払うよう命じる判決を下した。一審の東京地裁では、女性らが全面的に敗訴していたが、高裁でひっくり返った形だ。
【関連記事:民族伝統の「入れ墨」で入浴拒否 「合理性を欠く差別」として許されない?】
問題とされた番組は、2009年4月に放送されたNHKスペシャル「シリーズJAPANデビュー」の第1回で、戦前の日本の「台湾統治」を検証する内容だった。裁判の焦点は、この女性の父親らが日英博覧会(1910年)で紹介されたことを、番組が「人間動物園」と表現した点だった。東京高裁の判決は、表現の違法性を認定し、番組が女性らの心に「深い傷を残した」と指摘した。
逆転判決のポイントは、いったいどんな点だったのだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
「高裁判決のポイントは、放送で用いられた『人間動物園』という表現が史実に照らしても誤っている点を詳細に検証したうえで、そのような表現が原告女性の心をどれほど傷つけるものだったかについて、詳細に考慮した点にあると思います」
石井弁護士はこのように指摘する。高裁はどんな考察を行ったのだろうか。
「高裁判決では、台湾先住民族の人たちが『自分たちの伝統を世界の人々に紹介したい』という気持ちで、民族の誇りを持って日英博覧会に参加したと考える見解も有力だと指摘されました。
つまり、彼ら先住民族の間では、父や祖父の世代が博覧会に参加したことが、よい思い出と考えられているというのです」
番組内での扱い方はどうだったのだろうか?
「ところが放送では、日英博覧会での出来事を『人間動物園』と表現し、あたかもその民族が『野蛮で劣った植民地の人間であり、動物園の動物と同じであるかのよう』に扱われていた、という意味に取れる過激な表現が用いられました。
判決は、そういった表現が、先住民族の人たちやその子孫の人たちの人間としての人格を否定し、侮辱するものだったと判断したのです」
価値観やモノの見方は、見る人によって異なるのでは?
「放送事業者には、もちろん表現の自由が認められます。しかし、先入観に基づいて安易に人種差別的な表現を使用し、人の心を踏みにじるような番組があってはならないことは当然です」
石井弁護士はこのように述べたうえで、今回の判決について「妥当な判決だと思います」と話していた。
なお、NHKは12月11日付で最高裁に上告した。裁判の行方に、引き続き注目が集まりそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
石井 龍一(いしい・りゅういち)弁護士
兵庫県弁護士会所属 甲南大学法学部非常勤講師
事務所名:石井法律事務所