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祖父宅に金をせびりにきた孫が「逮捕」 なぜ「住居侵入罪」になってしまったのか?

2013年12月27日 15:30  弁護士ドットコム

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祖父の家に立ち入ったことで「逮捕」されることもあるようだ。島根県警は12月14日、祖父(77)の家の敷地に無断で立ち入った疑いで、無職の孫(22)を住居侵入容疑で現行犯逮捕した。


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報道によると、孫はたびたび祖父母宅を訪れ、1年半の間に約300万円を祖父から無心していたらしい。祖父は12月5日、「孫がしつこく金の無心に来る」と警察に相談。10日に孫がきた際も110番通報していた。そのとき、孫は、駆けつけた警察官の注意にしたがって帰ったが、14日に再び現れ、今回の逮捕に至った。孫は「祖父に小遣いをせびりに来た」と容疑を認めているという。



金に困った人物が、祖父母、あるいは親兄弟などの親族に無心に行くという話はよく聞くが、祖父の家に入って逮捕までされるというケースはあまり耳にしない。どんな事情があると、親族の家に入って「住居侵入罪」となるのだろうか。刑事事件にくわしい田沢剛弁護士に聞いた。



●「正当な理由」の有無がポイントとなる


「刑法130条(住居侵入等)は、『正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処する』と定めています」



借金の相談をしに祖父の家に行くことがダメなら、気軽に親戚を訪ねることもできなくなるのではないだろうか?



「ここで定められている住居侵入罪は、住居の平穏という法益(法が守ろうとする利益)を保護するための罪ですから、その法益の主体がこれを放棄していたり、あるいは法益を侵害することを承諾している場合には、住居侵入罪には該当しません。



たとえば、他人が住居に入ることを家主が承諾しているという場合には、『正当な理由がある』ということになり、上記の『正当な理由がないのに』という犯罪の成立要件が欠けることになるのです」



●「承諾」があれば、勝手に入っても罪に問われない


そうなると、「歓迎されている」という前提があるのなら、親戚や祖父の家に入ることも許されるのだろうか?



「普段は一緒に暮らしていない実家(親の住む家)に無断で入ったとしても、通常は住居侵入罪に問われることはありません。それは、事前に親が言葉に出して承諾をしたという事実がなかったとしても同じです。



通常の親であれば、子どもが自分の家に帰ってくることを拒否することなどありませんから、具体的な承諾行為がなかったとしても、黙示的に承諾している、あるいは承諾が推定されるものとして扱われるのです。



祖父母の家であっても、孫が来るのを喜ばないということはないでしょうから、通常は、黙示的承諾ないし推定的承諾があるものとして、住居侵入罪に問われることはないでしょう」



それでは、今回はなぜダメだったのだろうか?



「親族関係者の家であっても、こうした『承諾』がなければ、住居侵入罪に該当してしまいます。承諾の有無は社会常識に照らして判断されますから、嫁に行った姉妹の家に無断で入るとか、普段は付き合いのない従兄弟(従姉妹)の家に無断で入るなどということは、承諾があるとはいえず、住居侵入罪に問われるでしょう。



また、祖父母であっても、孫が来ることを迷惑に思ってこれを積極的に拒否している場合には、承諾がありませんから、住居侵入罪に問われることになります」



今回は逮捕までされたということだが……。



「本件の事案は、祖父が事前に警察に相談していたというのですから、承諾がないことは明白で、まさに住居侵入罪に問われるケースです。



ただ、孫が反省し、法益の主体である祖父が『許す』と表明すれば、国がわざわざ刑罰権をもって臨む必要はないでしょうから、不起訴となる可能性は極めて高いといえるでしょう」



田沢弁護士はこのように結論づけていた。



いくら孫といっても、拒否を振り切って立ち入る権利はないということだ。今回は、祖父に110番通報までされているのだから、本来はそこで気づくべきだったと言えるのだろうが……。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp