2013年12月26日 11:50 弁護士ドットコム
配偶者や恋人からの暴力を意味するドメスティック・バイオレンス(DV)。このDVを防止するための新ルールが、イギリスのイングランドとウェールズで、来年3月から施行されることになった。
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通称「クレア法」と呼ばれる新ルールの要点は、(1)自分のパートナーが過去に起こしたDVや暴力行為について、警察に「尋ねる権利」を認めることと、(2)警察が一定の条件下で、積極的にこうした情報を開示できるようにすることだ。
ルールの通称は、2009年に元恋人に殺害された女性クレア・ウッドさんにちなんだもの。クレアさんの元恋人には、女性に対する犯罪で、3件の前科があった。もしそれが知らされていれば事件は防げたのではないか、という議論がルール創設のきっかけだった。
DV被害は日本でも増え続けている。警察庁が2012年に把握した「配偶者からの暴力事案」の件数は、約4万4000件にも上っている。2001年にDV防止法が成立し、改正も重ねられてきたが、それで十分なのか。今後「クレア法」のような法律を、日本でも導入する必要性はあるのだろうか。DV・離婚問題にくわしく、国際離婚も取り扱う梁英哲弁護士に聞いた。
「日本でもクレア法と同様の制度の導入を検討するべきです」
梁弁護士はこう切り出した。なぜだろうか。
「DV被害者が、具体的な被害の発生前に、提供を受けた情報で、命を守ることができる場合もあるからです。
常習的なDV加害者といっても、常に暴力的とは限りません。優しい面をパートナーに見せることも多いです。『本当は優しい人』と思って交際を続けているうち、DVのサイクルに取り込まれ、重大な被害を受けるケースも珍しくありません。
しかし『DVによる犯罪歴』を知ることができれば、そうしたDV被害を未然に防止できると言えます」
日本でも、このようなルールを導入しようという動きがあるのだろうか?
「日本では、『DVによる犯罪歴』の情報提供をめぐる議論において、加害者側のプライバシー権侵害という問題が強調されているように感じます。情報を管理している捜査機関側にも、犯罪歴の情報を市民へ提供するという発想はないでしょう」
プライバシーについては、どう考えるべきだろうか?イギリスでも、情報開示にあたっては、プライバシーに配慮がなされているようだが……。
「当然、クレア法のような制度を導入する場合には、情報利用者の悪用を防止し、提供される者のプライバシーにも配慮する必要があります。
対象となる情報が『犯罪歴』なので、制度設計は簡単ではないと思いますが、全く不可能なことでもないと思います」
制度設計を議論する際に気をつけたい点として、他にどのようなことがあるだろうか?
「提供される情報は限定的であるべきです。たとえば、『DV保護命令』に関する履歴の情報提供はされるべきではないと思います。
なぜなら、緊急性が優先され、発令されても処罰を受けるわけではない保護命令は、刑事裁判と比べて、加害者側に十分な反論の機会が与えられていないからです」
梁弁護士はこのように述べていた。
DVをどうやって防いでいくかを考えるため、この「クレア法」がイギリスでどのように運用され、どのような効果をあげるのか、注目していきたい。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
梁 英哲(りゃん・よんちょる)弁護士
大阪弁護士会所属 日韓の渉外案件を中心に国際離婚、国際相続事件を多く取り扱っている。日韓の法律家のネットワークを生かした柔軟性のある事件解決を目指している。
事務所名:なんば国際法律事務所
事務所URL:http://www.namba-law.com/