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「路上喫煙者」をツイッターにアップ!? 正義ならば「盗撮・公開」は許されるのか?

2013年12月24日 16:50  弁護士ドットコム

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屋外でタバコを吸っている人を見つけると写真に撮り、その画像をツイッターにアップする――。そんなアカウントが話題になっている。投稿された写真を見ると、なかには顔がはっきりわかるものもある。いかにも迷惑行為といえそうな街中での喫煙者だけでなく、自宅前と思われる場所や灰皿が設置された喫煙所で吸っている人の写真まで、容赦なく晒されている。


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喫煙マナーや受動喫煙については社会的関心が高まり、路上喫煙の禁止条例を設ける自治体も増えている。しかし、喫煙者の写真をツイッターに晒すことには疑問を感じる人も多いようだ。「顔を晒してまでやるのは如何なものか?」「路上喫煙者を犯罪者のように扱うクセに、盗撮しまくる自分はどうなんでしょうね」といったコメントがついている。



事前に本人の許可を得ているのかは定かではないが、無許可で行っているとしたら、いくら「路上喫煙防止」という大義名分があるにせよ、こうした撮影・ネット投稿は違法行為にあたるのではないだろうか。石井邦尚弁護士に聞いた。



●人の顔が分かる写真の公開は「肖像権侵害」になりうる


「個人の顔がはっきり認識できるようなものについては、こうした撮影・ネット投稿は、撮影された人の『肖像権』を侵害し、民法上の不法行為として、損害賠償や差止請求の対象となるケースが多いと思われます」



「肖像権」とは、人が自己の肖像をみだりに他人に撮影されたり使用されたりしない権利のことだ。



「もっとも、『肖像権』の名の下に、承諾がなければ、およそ他人の写真を使うことができないというのでは、報道などにも支障を来し、表現の自由との関係でも問題です」



裁判所はこんな基準を示している。



「最高裁の判例では、他人の写真撮影が不法行為となるかどうかは、『被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮』して判断するとしています。



こうした複数の要素を総合して判断するので、どうしてもケースバイケースで検討せざるを得ないことになりますね」



それでは、今回問題となっている、路上喫煙者を撮影してツイッターで公表した行為についてはどうか。肖像権の侵害となるのだろうか。



●ネットで晒す行為は「私刑」の要素を含んでいる


「喫煙が禁止されている場所での喫煙であるということは、『総合考慮』する際の一要素になり得るかもしれません。しかし、それだけで直ちに写真撮影が許されるわけではありません。



もし、禁煙場所での喫煙をやめさせることが目的であれば、通常は、たとえば、建物や敷地の管理者、警察官などに働きかけて注意を促すといったことで十分です。したがって、撮影された人が特定できるような形でネットに公開する必要性が、どれだけあるのか疑問ですね」



だが、ツイートして「拡散」することで、「広く社会に路上禁煙を訴えたかった」という言い分も考えられる。こんな言い分であれば通るのか?



「仮に、公共の場所での喫煙の是非等について社会的に問題提起をしようといった目的だったとしても、被撮影者が特定される必要はないはずです」



たしかに、そういう目的だとしても、路上喫煙者の顔まで写っている写真を出す必然性は認めにくい。



「ネット上で本人を特定できる形で『晒す』という行為には、少なからず『私刑』の要素を含んでいると感じます。さきに述べたとおり、ケースバイケースの判断にはなりますが、裁判所は、安易に『私刑』にお墨付きを与えるような判断はしないだろうと予想します」



このように石井弁護士はまとめていた。



日本を含めた近代国家の法律は、法が定める手続きや機関によらない「私刑(リンチ)」を認めていない。もし「路上喫煙」という条例違反の行為に対して義憤に駆られたとしても、顔写真の撮影や公開がただちに許されるわけではないのだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
石井 邦尚(いしい・くにひさ)弁護士
1972年生まれ。専門は企業法務。
小5ではじめてコンピュータを知ったときの驚きと興奮が忘れられず、IT好きがこうじて、IT関連の法務を特に専門としている。著書に「ビジネスマンと法律実務家のためのIT法入門」(民事法研究会)など。東京大学法学部卒、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)卒
事務所名:カクイ法律事務所
事務所URL:http://www.kakuilaw.jp