2013年12月23日 19:31 弁護士ドットコム
行方不明の重要文化財(重文)が増えている――国宝を含む国の重文のうち、個人が所有する約800点について文化庁が確認調査を行ったところ、半数の388点の所在が分からなくなっていた、と産経新聞が報じた。
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原因は無申請の売買とみられる。文化財保護法では、重文の所有者が代わる際、文化庁に届け出を出すことになっている。文化庁はこの書類で、重文がどこにあるかを確認しているが、近年、申請がないケースが増加。重文の散逸や国外流出が懸念されているという。
ただ、重文といえども、そもそもは個人の所有物。持ち主の好きなように扱いたいという考えは分からなくはないし、相続の過程で重文であることが忘れられてしまうこともあるだろう。それなのに、無申請で重文を売却すると「処罰」されてしまうのだろうか。伊藤隆啓弁護士に聞いた。
「重要文化財(重文)は、日本に所在する建造物や絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書、考古資料、歴史資料等の有形文化財のうち、文化財保護法に基づき、重要なものとして政府が指定した文化財を指します。
なお、その中でも、世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝と指定します」
重文を取り扱う際には、どんな点に注意しなければならないのだろうか。
「重文は、一部の例外を除き、海外へ輸出することはできません。許可なく輸出した場合は、5年以下の懲役・禁錮、または100万円以下の罰金に処せられます」
許可なく国外へ持ち出すと、厳しく処罰されることになるようだ。国内ではどうだろうか?
「重文の所有者氏名や住所が変更になった場合や、重文の所在場所を変更する場合は、文化庁に届け出る必要があります。
また、相続、寄贈または売買等により重文を取得した場合、新所有者は文化庁へ所有者変更の届出をする必要があります。
これらの届出を怠ったり、虚偽の届出をした場合は、5万円以下の過料に処せられることがあります」
重文の売買には、かなり変わった仕組みがあるようだ。
「重文の保護を図るため、国には『優先買取権』が認められています」
伊藤弁護士はこのように述べる。それはどういった内容なのだろうか?
「所有者は、重文を売却する前に、国(文化庁)に対して、売渡しの申出をする必要があります。所有者はこの際、譲渡の相手方や予定対価の額などを申告しなければなりません。
文化庁はこの申し出を受けて、30日以内にその重文を買い取るかどうかを決定します。買い取る場合は、申し出のあった予定対価に相当する金額で、国との売買契約が成立します。買い取らない場合は、国から所有者に対し、その旨が通知されます。
所有者は、この通知を受けて初めて、任意の個人や団体への売却ができるのです(文化財保護法46条)。申出を怠ったり、虚偽の申出をしたり、国から通知を受ける前に売却した場合、10万円以下の過料に処せられることがあります」
国は、重文をどんな人が所有することになるのかなど、さまざまな情報に基づいて、買い取るかどうかという判断を下すようだ。なお、相続による無償承継や、贈与・寄付などの無償譲渡の場合、国への売渡しの申出は必要ないようだ。
重文の保護に関しては、このようにさまざまな仕組みが用意されているようだが……。伊藤弁護士は「この制度は、なかなか周知徹底がされていないのが実状です。国は、もっと重文の所在の実態把握に努め、所有者に対する啓もう活動を行う必要があります」と指摘していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
伊藤 隆啓(いとう・たかひろ)弁護士
弁護士レオーネ北浜法律事務所 代表弁護士
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