2013年12月16日 17:21 弁護士ドットコム
もういくつ寝るとお正月……というにはまだ少し気が早いかもしれないが、2013年も残りわずか。この年末年始は土日も含めると最大9連休になるというから、楽しい予定を立てている人もいるだろう。
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しかし年末年始のうち、国民の祝日とされているのは、元日(1月1日)だけだ。たとえば、大晦日や元日の翌日は、法律で定められた休日というわけではない。そんなことから、「正月休みは有給休暇を使うように」と指示する会社もあるのだという。
有給休暇を消化するのは、従業員の「権利」のはずだ。正月休みにあてるよう会社から指示されるのは、どこか釈然としないものがある。このような会社の指示は、労働基準法に違反しないのだろうか。野澤裕昭弁護士に聞いた。
「年次有給休暇(年休)の取得は、労働者個人の権利です(労働基準法39条)。そして、年休は、理由のいかんを問わず、取りたいときに自由に取れるのが原則です」
このように野澤弁護士は説明する。
「この年休権は労働者の権利ですから、使用者が年休の取得や時期を指定することは、本末転倒です。使用者が勝手に正月休みを年休に指定することは、労基法に違反します」
いつ有給休暇を取るのかは、労働者の自由であって、会社から指示されるいわれはない、というわけだ。さらに、「正月休みに有給休暇を取るように」というのは、別の点でも問題があるという。
「会社によっては、就業規則で正月休みを所定休日にしているところがあります。そもそも年休というのは、その取得によって、本来の就労義務がなくなることに意味があります。つまり、もともと休日である日に、年休を取得する意味はないのです」
野澤弁護士によると、行政通達でも、「年休は、当初から就労義務がないとされている日(休日など)については成立しえない」とされているという。
「したがって、使用者が、休日である正月休みに年休を取得させることは、労働者からすると、その分だけ年休を減らされたのと同じことになります。
これは、法定の年休日数を与えない場合と同様になり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条)となる可能性があります」
つまり、正月休みが休日とされている会社の場合、そのときに有給休暇を取るように指示することは、年休日数を減らすという点で、労基法違反になるというのだ。
「もっとも、労基法は有給取得を促進するため、計画年休制度を設けています。これは、一定条件のもとで労働組合もしくは労働者の代表が使用者と書面による協定を結べば、労働者個人の年休権行使を拘束することができるというものです。
年休がなかなか消化できない理由として、同僚や上司、職場の雰囲気への気兼ねから年休取得をためらう傾向にあることから、この制度が導入されました。もし、この労使協定で正月休みに年休を消化すると定めれば有効となります。
しかし、それが有給取得を促進するという計画年休の制度趣旨に合致しているかは疑問ですが・・・」
このように野澤弁護士は説明する。もし、このような労使協定がないにもかかわらず、あなたの会社が「正月休みに有給休暇を消化するように」と命令してきたとしたら、残念ながら「ブラック企業」と呼ぶしかなさそうだ。
【追記】記事中に説明不足な点がありましたので、説明を追加し、一部の表現を変更いたしました(2014年1月10日10時12分)
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
野澤 裕昭(のざわ・ひろあき)弁護士
1954年、北海道生まれ。1987年に弁護士登録。東京を拠点に活動。取扱い案件は、民事事件、刑事事件、労働事件、相続・離婚事件等家事事件。正確、最善をモットーとしている。趣味は映画、美術鑑賞、ゴルフなど。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/