2013年12月16日 14:31 弁護士ドットコム
「503」などで有名な国内ジーンズ最大手エドウィンが11月下旬、債務超過により、「事業再生ADR」を申請する事態に陥った。事業を継続しながら経営再建を目指す方針だという。
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東京商工リサーチによると、ファストファッションの台頭や東日本大震災の悪影響などで業績が伸び悩んでいた2012年に、巨額の投資損失・不正経理問題が発覚。その後、取引銀行間で経営再建策が話し合われたが、足並みがそろわず、今回の事業再生ADR申請に至ったようだ。
この「事業再生ADR」とは、耳慣れない言葉だが、いったいどういった仕組みなのだろうか、会社更生法など、法的処理との違いはどこにあるのだろうか。企業の経営再建の問題にくわしい宮田卓弥弁護士に聞いた。
「事業再生ADRとは、国から認定を受けた『専門機関』が手続を主導して行う『私的整理』の一種です」
宮田弁護士はこう切り出した。ADRとは、「Alternative Dispute Resolution」の略称で、「裁判外紛争解決手続」を意味する。つまり、事業再生ADRとは、企業の「事業再生」に関する「裁判外の紛争解決手続」のことだ。エドウィンが申請したのも、「事業再生実務家協会」という第三者機関だ。
その特徴は、どんな点にあるのだろうか。
「事業再生ADRが、会社更生などの『法的処理』と異なるのは、必ずしもすべての債権者を巻き込む必要はないということです。手続に参加する債権者を金融機関に限定することにより、取引先とは今まで通り、取引を継続できるわけです。また、手続を公にしないで遂行できます。これらは、私的整理に共通の特徴です」
その一方で、事業再生ADRには、法的整理と似た面もあるという。
「それは、専門機関が手続を主導する点や、債権者による新たな融資や債務免除に優遇措置がある点などです。事業再生ADRは、私的整理と法的整理の利点の融合を狙ったものなのです」
では、事業再生ADRを利用する際には、どんな点に注意すべきなのだろうか。
「事業再生ADRの大きなハードルの一つは、『再生計画案について、手続に参加する債権者全員の同意が得られるか』という点です。
事業再生ADR利用者は、債務返済のリスケやつなぎ融資を期待して、再建計画案を作成するのですが、事業再生ADRは債権者との合意による私的整理であるがゆえに、再建計画には、手続に参加する債権者全員の同意が必要なのです」
再生手続に加わる債権者「全員」の同意を得なければいけないというのが、ポイントのようだ。
「一方、会社更生や民事再生での計画案は、過半数等で可決できます。つまり、事業再生ADRは、手続に参加する債権者を選べる分、法的整理より融通がききますが、対象債権者全員の同意が必要という点では、法的整理より難があるのです」
このように事業再生ADRの長所短所を述べたうえで、宮田弁護士は具体的な例をあげる。
「たとえば、コスモスイニシアは、2009年に事業再生ADRを申請し、リスケや債務免除を含む再建計画に対象債権者の同意を得て、今年3月に再建計画上の債務を完済しました。
これに対して、ウィルコムの場合は、事業再生ADRを利用したものの、計画に同意が得られず、結局、更生手続に至っています」
宮田弁護士によると、事業再生ADRは、正式申請までに「数百万円に上る費用がかかることがある」という。それだけの手続費用をかけたのにもかかわらず、債権者の同意が得られなくて、結局、会社更生による法的整理を選択しなければいけないケースもあるということだ。
「ウィルコムは、事業再生ADR申請の数カ月後に会社更生に至っています。エドウィンのケースも、対象債権者全員の同意を得られる再建計画を作成できるかどうかが、正念場と言えるでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
宮田 卓弥(みやた・たくひろ)弁護士
福岡県弁護士会所属(平成14年弁護士登録)
福岡を中心に九州の企業の再生・倒産関係を多く扱い、企業経営に苦しむ経営者の再生に力を入れている。
事務所名:弁護士法人たくみ法律事務所
事務所URL:http://www.miyata-law.com/