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スマホを向けただけで「盗撮犯」? 岩手県の「迷惑防止条例」改正案をどう見るか

2013年12月16日 12:20  弁護士ドットコム

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近年、シャッター音を消して写真撮影できるスマホアプリの登場などにより、「盗撮」の手口が巧妙化していることが問題となっている。そこで、岩手県は、盗撮などを取り締まる「迷惑防止条例」の改正を検討しているという。


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現行の条例では、盗撮は実際に「撮影したこと」を確認しないと取り締まることができない。そのためスカートの中にカメラを差し入れたが、被害者に気付かれて撮影に至らなかったり、撮影した画像が既に消去されていたケースは取締りの対象にできなかった。



今回、岩手県警が検討している案は、「カメラ等を着衣で覆われた下着等に向けて差し出す行為」自体を禁止行為として規制しようというものだ。つまり、盗撮画像がなくても盗撮を取締りできるようにするというのだ。同県警がウェブサイトでこの案を公開したところ、ネットでは「冤罪が起きやすくなるのではないか」という指摘があがっている。



この岩手県警の条例改正案をどう見るべきか。岩手弁護士会の刑事弁護委員会委員である小笠原基也弁護士に聞いた。



●外形的行為のみで処罰するため、適用範囲が格段に広い


「結論的にいうと、この改正案は、刑罰法規としてはバランスを欠くものといえます。また、報道等で懸念されているとおり、濫用されると、市民の権利・自由が大きく制限されるおそれがあり、大変問題であると思います」



このように小笠原弁護士は見解を述べる。なぜ、そう考えるのか。



「県警は改正の理由として、(1)犯人がカメラ等を女性のスカート内に差し入れたものの、シャッターを押す直前に被害者等に気付かれて撮影に至らなかった場合、(2)シャッターが押されたとしても、被害者等に気付かれて犯人が慌てて画像を消去した場合などは、盗撮画像が確認できないことから、現行条例では取り締まることができないことを挙げています」



このように述べたうえで、一つ目の理由について、次のような問題があると指摘する。



「(1)については、結局のところ、撮影されておらず、犯人が画像を見たり、それを拡散するなどの危険が生じていないため、被害者の羞恥心など、法により守るべき利益(法益)の侵害が現実化していません。



それにもかかわらず、これを処罰することは、未遂犯処罰規定を設けるのに似ています。しかし盗撮目的を問わず、外形的行為のみで処罰するので、その適用範囲は格段に広いですし、風呂や脱衣所での裸ののぞき見(軽犯罪法)ですら未遂処罰規定がないことに比べ、バランスを欠いています」



●自白に頼った捜査は「冤罪」を生むおそれが大きい


では、岩手県警があげる二つ目の理由については、どうだろうか。



「(2)についても、撮影直後に消去されたのであれば、法益侵害の度合いは小さいといえます。また、撮影したとする目撃者の証言と、消去されたデータの復元・解析など、丁寧な捜査をすれば、立件できる可能性はあります。そのような必要な捜査を尽くさないで立件するための改正など許されません」



このように厳しく批判する小笠原弁護士だが、さらに大きな問題があるという。



「何より問題なのは、『カメラ等を着衣で覆われた下着等に向けて差し出す行為』を立件するための証拠は、被害者等の供述と被疑者の供述(自白)に頼らざるを得ないということです。



これまでは、撮影した写真という極めて客観性の高い証拠が、証明の中心でした。しかし、このような『供述』を証明の中心にすると、捜査官が自白を得ようと違法な取調べをして、その結果、冤罪を生むおそれが多大にあります」



ネットでも指摘が出ているように、「冤罪」が起きやすくなる可能性があるというわけだ。



「我が国では、否認すれば、それだけで勾留されて、最大20日間、身柄拘束を受けるという『人質司法』が多くまかり通っています。そんな中で、『否認すれば、しばらくは帰れなくなるが、認めればすぐに帰れる』という詐術的取調べの結果、虚偽の自白がなされる例は多数あります」



このように現在の警察の取調べの問題点を指摘したうえで、小笠原弁護士は、今回の条例改正案について、次のような懸念を示していた。



「刑罰は、謙抑的でなければならず、また、市民が合法的行為を予見できなければなりません。しかし岩手県警の改正案では、スマホを取り出す場所などをよくよく考えて使わないと、いつあらぬ疑いをかけられるか分からないことになります」



(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
小笠原 基也(おがさわら・もとや)弁護士
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員
事務所名:もりおか法律事務所