2013年12月12日 18:40 弁護士ドットコム
労働者が仕事上の災害や通勤中の災害で亡くなったときに、残された家族に支給される「遺族補償年金」。市役所などで働く地方公務員の場合は、地方公務員災害補償法にその規定があるが、年金の受給資格には「男女格差」が存在する。
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夫をなくした「妻」は年齢に関係なく年金をもらえるのに、妻をなくした「夫」は55歳以上か、一定の障害がある場合でないと、年金を受給できないとされているのだ。この地方公務員災害補償法の規定は、法の下の平等を定めた憲法に違反して無効である――そんな判決が11月下旬、大阪地裁によって下された。
同じような遺族補償年金をめぐる受給資格の「男女格差」は、民間企業で働く労働者を対象にした労災保険にも存在しており、この制度の是非に注目が集まっている。今回の判決をどう見るのか。労働災害事件にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
「今回の大阪地裁の判決は、憲法14条の『法の下の平等』の趣旨を素直に解釈して結論を出した正当な判決と評価できます」
波多野弁護士は、判決を肯定的に評価する。理由をくわしく聞こう。
「『性別』を理由に差別をおこなってはならないことは、法の下の平等を定めた憲法14条に明記されています。
最高裁判例は憲法14条について、『この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱を禁止する趣旨』と、解釈しています。
今回の大阪地裁判決は、この解釈に則って、地方公務員災害補償法の規定に『合理的な根拠』があるのかないのかを判断しました」
どんな判断がなされたのだろうか?
「大阪地裁判決は、『立法制定時においては、女性と男性とを区別することに関して一定の合理性はあった』と認めたうえで、それでも『共働き世帯が一般的な家族モデルとなっている今日においては、配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱は、もはや立法目的との間に合理的な関連性を有しない』として、違憲の判断を行いました」
この法律が制定された当時は合理性があると判断されていたが、現在はすでに時代遅れとなっているということだろう。
たしかに、この地方公務員災害補償法が施行された1967年と比べると、現在の家族観や生活スタイルはかなり多様化している。最近、婚外子など「差別」をめぐる違憲判決が相次いでいるが、従来の法律をこうした観点から見直す流れは、今後も続くのかもしれない。
波多野弁護士は「憲法上の重要な論点であるとして、この問題を掘り起こして戦った原告の方や、原告代理人弁護士に、そして、その原告の訴えをしっかり受け止めて正しい判断を行った裁判所に敬意を表したいと思います」と話している。
だが、この裁判の被告である地方公務員災害補償基金は12月6日、大阪地裁の判決を不服として、大阪高裁に控訴した。第2審でどのような判断が示されるのか、引き続き注目していきたい。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来10年以上、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇や残業代にまつわる事件に数多く取り組んできている。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com