2013年12月12日 12:11 弁護士ドットコム
インターネット上で「援助交際」などを持ちかける児童に対して、警察が行う「サイバー補導」が話題を呼んでいる。児童がインターネットで知り合った相手から性犯罪被害を受けないようにするため、10月下旬から全国で始まった。報道によると、10都道府県で今春から試験的に実施し、9月末までに89人を補導したという。
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警察庁の通達によると、サイバー補導は(1)SNSや掲示板などを「サイバーパトロール」し、不適切な書き込みを発見する、(2)警察官が身分を隠して書き込みをした人とやり取りする、(3)書き込みをした対象者に直接会って指導をする、という段取りで行われる。捜査に当たる警察官には、スマートフォンなども支給されるようだ。
一方ネットには、「おとり捜査」とはどう違うのか、つまり、少女らに対するだまし討ちになるのではないか、といった声もある。こうした「サイバー補導」に懸念点はないのだろうか。インターネット犯罪にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。
「警察は以前から、違法に販売されている商品を実際に購入し、事実関係を確認して立件へと結びつける捜査を行っています。これは、『買い受け捜査』と言われている手法です。
こういった手法を、インターネット上における少年非行に対しても活用するのが『サイバー補導』ということになります」
サイバー補導は、以前から行われている捜査手法の延長線上にあるということだ。しかし、たとえば違法薬物売買の摘発と青少年の補導では、ずいぶんと意味合いが異なる気がするが、落合弁護士はどう見ているのだろうか。
「援助交際などの非行がインターネットでまん延しがちで、従来のような『盛り場などでの補導』では対応できない現状では、このような手法を用いるのも、やむを得ない面があります。刻一刻と進行する非行に対し、積極的に働きかける点で、非行防止の実効性も期待できる面があるでしょう」
落合弁護士はこのように、サイバー補導の「効果」を指摘する。
逆に、心配すべき側面はないのだろうか?
「こうした手法には、警察による関与が度を過ぎることにならないか、過剰な手段が少年非行を『作り出す』ことにならないかといった懸念もあります」
いくら有効な手法とはいえ、やはり、何らかの歯止めは必要なようだ。サイバー補導の「限界」を考えるうえで、参考となるような判例はあるのだろうか?
「いわゆる『おとり捜査』が問題となったケースで、最高裁は、『通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うこと』は任意捜査として許容すべきもの、判断としています。
サイバー補導の是非を考える際には、こうした判例が示す枠組みも参考になるでしょう」
落合弁護士はこのように述べたうえで、「サイバー補導には、成果も期待されていますが、それと同時に、必要かつ合理的な範囲内で慎重に行われることも求められています」と指摘していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
落合 洋司(おちあい・ようじ)弁護士
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。
事務所名:泉岳寺前法律事務所
事務所URL:http://d.hatena.ne.jp/yjochi/