2013年12月08日 14:00 弁護士ドットコム
自分の親と一切縁を切るつもりで婚活をしたい――。こんな相談がネットのQ&Aサイトに投稿された。相談主によると、母親の人格に問題があり、常軌を逸した行動を取るため、「何らかの接点を持っていくらか付き合った相手と、確実に関係を破綻させてしまう」というのだ。
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そのため、「仮に結婚した場合、私の親はお相手やその親族の方と真っ当な人間関係を築くことが出来そうにない」ということで、相談主は婚活をするにあたって、「私の親と一切関わらせないという前提でお相手の方を探したい」と記している。
実家から遠く離れて暮らしたり、連絡先を教えないようにすれば、日常生活を疎遠にすることは可能だろう。だが、法的に「親子」であるかぎり、親の起こしたトラブルの責任が自分にまわってくる心配もつきまとう。
では、法的な関係においても、「親子の縁」を切ることはできるのだろうか。家族のトラブルにくわしい小林明子弁護士に聞いた。
「法的に親子の縁を切る方法はありません。結婚、養子縁組などで戸籍が分かれても、実の親との法律上の関係は変わりません。親子の縁を切るといっても、個別にできることはほとんどなく、親であること、子であることは生涯続くものです。
ただし、その方は親の起こしたトラブルの責任が自分にまわってくるのではないかと心配されているようですが、親の起こしたトラブルの法的責任を子が負うというケースは、通常はないと言えます」
小林弁護士は、このように述べたうえで、たとえ親子関係がうまくいっていなくても、子どもは「扶養」と「相続」については知っておくべきだと話す。どんな点に注意すればいいのだろうか。
「まずは『扶養』ですが、親子間には、互いに扶養する義務(生活扶助義務)があります(民法877条)。
親が生活に困り、子に扶養を請求するというのは、よくあるケースです。もし子が応じなかった場合、親は家庭裁判所に扶養の調停・審判を申し立てることができます。
また、もし親が生活保護を申請した場合、子に対しては、福祉事務所から扶養照会文書が送られてきて、援助が可能かどうかを問われます」
調停や審判の結果によっては、親への一定の援助が義務づけられる可能性もあるわけだ。ただ、子ども自身の生活が苦しい場合だってあるだろう。扶養義務とは身を削ってでも、親の面倒を見なければならないほどの義務なのだろうか。
「親に対する生活扶助義務について、扶養の程度・方法は、子の社会的地位や収入等にふさわしい生活をしたうえで、余力がある分でよいとされています。また、過去の親子関係によっては、この扶養義務が発生しないこともあります。
これは、配偶者や未成熟子に対する扶養義務が『生活保持義務』とされ、必ず自分と同じ程度の生活を保障しなければならないことと比べれば、緩やかなものです。
ただし、生活保護に関しては、今後、生活保護法の改正により、扶養義務を強く求める方向に進むのではないかと思われます」
「次に相続ですが、親が亡くなった場合、子は親の遺産を相続します。
遺産には、借金も含まれます。そこで、相続をしたくなければ、相続が開始したことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に書類を提出して、相続を『放棄』しなければなりません」
特に親と長期間連絡をとっていないような場合には、親の借金には気をつけておいたほうがよさそうだ。
「また、子が先に亡くなった場合、財産が子から親へと相続される場合があります。
もし何らかの事情で、親に遺産を渡したくないという場合には、推定相続人の廃除という制度があります。
これは、相続をする立場にいる人が、財産を遺した人に対して、虐待(暴行を加えるなど)や重大な侮辱(名誉棄損など)をしていたり、著しい非行(浪費、遊興など)があったと家庭裁判所が認めた場合、その人が遺産を相続する権利を失うという制度です」
たとえば、親に著しい浪費癖があるのなら、こういった制度を利用することも考えるべきということだろうか。
今回、小林弁護士が指摘してくれたような点は、親子関係が悪いほど現実的な問題となりそうだ。ネットの相談主のようなケースでは、まず親を説得して「常軌を逸した行動」を止めてもらうのが、理想ではあるのだろうが……。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小林 明子(こばやし・あきこ)弁護士
1981年弁護士登録。東京弁護士会所属。東京簡易裁判所民事調停委員・司法委員。法務省委嘱人権擁護委員
事務所名:小林明子法律事務所
事務所URL:http://www.rikon-soudan.jpn.com/