2013年12月01日 11:10 弁護士ドットコム
息子が日テレに入ったのも私のコネです――。タレントみのもんたさんが雑誌に寄せた手記を見て、「やっぱりか」と落胆した就活生も多いだろう。手記によると、みのさんの次男は日テレの採用試験を受けたが、「難しすぎて名前と住所しか書けなかった」。そこで、みのさんが当時の日テレ・氏家齊一郎会長(故人)に直談判し、入社にこぎつけたというのだ。
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こうした「縁故採用」を行っていると噂されるのは、なにも同社に限った話ではない。すべてを「コネだ」と決めつけるのは乱暴だが、大物タレントや有力政治家の子どもが有名企業で働いている例は、枚挙にいとまがない。
一方、多くの学生は「厳正な採用基準」を信じ、12月から一斉に始まる就職活動に備えている。学生たちにとって、試験の出来が悪くても「親の七光り」で入社できてしまうという現実には納得がいかないだろう。企業が一部の社員を「コネ」で採用することは、法的に問題ないのだろうか。労働問題にくわしい中村新弁護士に聞いた。
「公務員の縁故採用については、国家公務員法・地方公務員法等に禁止規定があります。しかし、民間企業についてこのような規定は存在しません」
中村弁護士はこのように指摘する。民間企業の「縁故採用」を禁じる法律はないようだ。
「性別による差別(男女雇用機会均等法)や年齢による差別(雇用対策法)など、法律が禁じている採用差別に該当しない限り、各企業は、自らの裁量で従業員として採用する者を決めることができます(三菱樹脂事件最高裁判例参照)。
この結論は、憲法上民間企業に保障される営業の自由や、近代私法上の原則である契約自由の原則から導かれます」
どのような人物を採用するかに関しては、企業側の裁量が比較的幅広く認められているという。
一方、厚労省が企業に向けてウェブ上で公開している「採用のためのチェックポイント」では、基本的人権の尊重と並んで、「応募者の適性・能力のみを基準として採用選考を行うのが基本」と呼びかけているが……。
「厚労省はこのような呼びかけを行っていますし、家族の職業・勤務先等に関する情報を採用時に収集することは個人情報保護との関係でも問題となりますので、民間企業も縁故採用につながる情報収集を自ら進んで行うことは差し控えるケースが多いと思われます。
ただし、縁故採用にも取引先とのつながりを強めるなどの効果が見込まれることがあり、経営陣がこのような効果を重視した場合には、結果的に縁故採用が発生したとしても、これを違法と難じることは困難でしょう。
とはいえ、縁故採用ばかりとなると企業の活力が削がれることになるのも事実です。一部の民間企業では、社内規程や内規により、縁故採用を自主的に規制しているようです」
中村弁護士はこのように解説してくれた。
結局、今の日本では、「コネも実力のうち」と見なされているようだ。そういった実力をお持ちの方々が、会社で普段どんなお仕事をされているのか、機会があればじっくり聞いてみたいところではあるが……。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
平成15年弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。他の注力分野は、企業の倒産処理(破産管財を含む)、など。
事務所名:中村新法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/