2013年11月24日 15:40 弁護士ドットコム
「百万円」と書かれたおもちゃの紙幣を使って現金をだまし取ったとして11月上旬、大阪府内の高校生2人が逮捕された。報道によると、2人は同府吹田市のたばこ店で、76歳の男性店主に1万円札に見せかけたおもちゃの紙幣を渡し、両替を依頼。千円札10枚をだまし取った疑いが持たれている。
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報道によると、今回利用されたのは、おもしろグッズとして販売されている「百万円札メモ帳」という商品。表紙には「壱万円」ではなく「百万円」、「日本銀行券」のかわりに「見本銀行券」と書かれているが、福沢諭吉の肖像などデザインはよく似ているという。2人はこれをコピーして貼り合わせ、1万円札に見せかけたようだ。
ところで今回、2人の高校生が逮捕されたのは「詐欺罪」の容疑だったと報じられている。2人が作った「偽札」は、警察も「あまりにも稚拙だ」と呆れたレベルだったようだが、なぜこれは「通貨偽造罪」とされなかったのだろうか。元検事で刑事事件にくわしい山田直子弁護士に聞いた。
「通貨偽造行為を処罰することによって守られるべき『法益』は、通貨に対する一般人の信用とされています。
日常生活で使われる貨幣や紙幣が本物かどうか、毎回、怪しまなければいけないような事態となれば、経済活動は成り立たなくなって、世の中は大混乱となりますよね。
そのような事態が起きないように、刑法は、通貨偽造行為を厳しく処罰しているのです」
「法益」というのは、ざっくりいうと、法規制によって得られる利益のことだ。さて、そもそも規制の目的が「通貨の信用を守るため」であるとするならば……。
「誰が見ても、ニセモノだとすぐに判る偽札を作ったところで、そのような混乱が生じるおそれはありません。したがって、すぐにニセモノと判る偽札を作ることまでを『偽造』として、処罰する必要はないということです」
それでは、2人の高校生が「詐欺罪」で逮捕された点については、どう考えればいいのだろうか。
「偽造通貨を使って相手をだまし、商品を手に入れれば、『偽造通貨行使罪』が成立します。
偽造通貨を使って相手をだますという行為には、詐欺の要素も含まれます。ただ、詐欺罪よりも法定刑の重い『偽造通貨行使罪』には、詐欺の要素も織り込み済みとされており、詐欺罪が別に成立するわけではないのです。
一方で今回のように、『偽造』に至らないニセモノを使ったケースでは、本来の詐欺罪のみが成立することとなります」
誰もが一目みてニセモノとわかるお金であれば、硬貨を使った場合も、やはり「偽造」にはならないのだろうか。
「一昔前、穴を開けて重量を調整した韓国の500ウォン硬貨を自動販売機に投入し、返却レバーを押して、日本の500円硬貨を手に入れるという手口の犯行がはやったことがありました。
穴のあいたウォン硬貨を見ても、誰も本物の500円硬貨とは信用しませんので、この場合も通貨偽造や偽造通貨行使にはなりません。また、この場合、人をだましたわけではないので、成立するのは窃盗罪です」
つまり、誰もがぱっと見でニセモノだと確信できるレベルなら通貨偽造にはならないが、たとえそういうレベルの品でも、不正利用が許されるわけではない、ということだろう。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山田 直子(やまだ・なおこ)弁護士
奈良弁護士会所属(元検事)
事務所名:弁護士法人松柏法律事務所生駒事務所
事務所URL:http://keiji-shohaku-law.jp/