2013年11月21日 16:00 弁護士ドットコム
『教科書採択』をめぐり、沖縄が揺れている。沖縄県・竹富町の中学校が独自に選んだ公民教科書を使用していることが「違法」として、下村博文・文部科学大臣が沖縄県教育委員会に対して、地方自治法にもとづく「是正要求」を指示、県教委が対応に苦慮しているのだ。
【関連記事:NHK受信契約「高裁判決」に疑問あり! 「拒否しても2週間で契約成立」の根拠は?】
おおまかな経緯はこうだ。竹富町と石垣市、与那国町からなる八重山地区の教科書採択地区協議会は、「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版の中学公民教科書を使うよう答申した。石垣市と与那国町は答申に従ったが、竹富町は「手順がおかしく、答申にも法的拘束力はない」として、独自に東京書籍版を使うことにした。この結果、国による教科書の無償給付が受けられなくなったが、同町は寄付により教科書を購入し、生徒に無償配布している――。
そもそも、教科書選定には、どんなルールがあるのだろうか。また、今回の事態をどう理解すればいいのだろうか。小池拓也弁護士に解説してもらった。
「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)の23条には、『教育委員会の職務権限』の一つとして、『教科書その他の教材の取扱いに関すること』があげられています。教科書の採択はここに含まれる、というのが一般的な解釈です」
小池弁護士はこう切り出した。
「一方、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(無償措置法)の13条4項は、今回のようなケースについて、『採択地区内の市町村の教育委員会は、協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない』としています」
つまり、地教行法は「採択は教育委員会の権限」としているのに対して、無償措置法は「地区で協議して同一の教科書を採択」としている。ルールとしてはどちらが優先されるのだろうか?
「野田内閣は、《無償措置法が優先する》旨の見解を示しました(照屋寛徳議員の質問書に対する2011年10月7日付答弁書)。これは、特別法(無償措置法)は一般法(地教行法)に優先するという、法律の一般原則が根拠です。
もっとも、野田内閣はその後、今回のようなケースについて、《無償措置法に基づいて教科書を無償配布することはできないが、無償措置によらず教育委員会が自ら教科書を購入し生徒に給与することが、同法で禁止されているわけではない》という趣旨の見解を示しています(同議員の質問書に対する2011年11月8日付答弁書)」
そうなると、野田内閣のときには、竹富町のやり方は「合法」とされていたわけだ。
「一方、下村博文文科大臣は先月、共同採択地区内の市町村教育委員会は教科書無償措置法のルールに従わなければならないとして、竹富町の採択を『違法』としています(2013年10月18日記者会見)」
つまり、民主党政権から自民党政権への「政権交代」によって、政府の見解が「合法から違法へ」と変わり、「是正要求」をおこなったというわけだ。この「是正要求」とは、政府の行為としては、どのような位置づけにあるのだろうか。
「地方自治法245条の5の『是正要求』は、事務処理が『法令の規定に違反していると認めるとき』または『著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害していると認めるとき』になしうるものです。法令違反は『著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害していると認めるとき』に準ずる重大なものに限られるというべきでしょう。
報道によると、過去に是正要求がされたのは、住民基本台帳ネットワークに不参加だった東京都国立市と福島県矢祭町について実施した2例があるのみです。同ネットワークに希望者のみ参加する選択制を約4年間とっていた横浜市については、総務庁は『住民基本台帳法に違反する行為』としながら、是正要求は行いませんでした」
住基ネットは全国一律の運用が前提とされ、これら自治体の「造反」は大騒動となった記憶がある。離島の中学校が、他地区と異なる教科書を選んだことは、横浜市が選択制をとったことよりも重大な法令違反なのだろうか。
「下村大臣の行った指示について考える際には、以下の5点を踏まえる必要があるでしょう。
(1)八重山採択地区協議会の答申は、その過程や内容に疑問の声が上がっていること
(2)文部省は教科書採択地区の小規模化に努めるよう都道府県教委に通知していること(文初教第454号平成9年9月11日)
(3)無償措置法が『地区で協議して同一の教科書を採択』としている趣旨は、『地域内の教師の共同研究の上にも、また児童、生徒の同一地域内における転校の際にも便利である等、教育上の利点がある』(昭和38年3月8日衆議院本会議における荒木萬壽夫文部大臣趣旨説明)というものであること
(4)竹富町では、東京書籍の教科書(文科省検定済)が生徒に無償で配布されていること
(5)野田内閣は『禁止ではない』という見解を示したこと」
小池弁護士はこうしたポイントを挙げたうえで、次のように結論付けていた。
「竹富町が他市・町と異なる教科書を使用していることは、横浜市が選択制をとったこと以上に重大な法令違反とはいえないでしょう」
この問題をめぐっては、沖縄県教委がどのように対応するのか、注目されている。すなわち、下村文科相の指示にしたがって、竹富町教委に是正要求をするのかどうかが焦点となっているが、沖縄県教委は11月20日、判断を先送りすることを決めた。引き続き、事態を注視していく必要があるだろう。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html