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社交ダンスにも及ぶ「風営法規制」の波 「ダンスの多様性に法律が追い付いていない」

2013年11月18日 11:50  弁護士ドットコム

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ここ数年、相次いでいるダンスクラブの摘発。昨年4月には20年近く営業していた大阪の老舗クラブが摘発されたが、なんとその余波が、社交ダンスやサルサのような歴史あるダンスの世界にまで及んでいるという。


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昨年7月には、高知市が「参加者から会費を取る社交ダンスパーティは、風営法の規制対象になる場合がある」と公共施設に警告した。同じころ、六本木の老舗サルサバーが閉店に追い込まれたが、前年に店長が風営法違反(無許可営業)で逮捕されたのがきっかけだった。



映画『Shall we ダンス?』(1996年)が火付け役となり、国民の間に広く浸透した社交ダンスだが、昨年11月に警察庁が示した見解によれば、「社交ダンスに代表されるような男女がペアとなって踊る」ダンスは、「男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性」があるということだ。



現実問題として、社交ダンスは摘発の対象となるのだろうか。ダンス規制問題にくわしい立石結夏弁護士に聞いた。



●ダンス教室やパーティは「風営法」の規制対象


「社交ダンススクール営業は風営法2条4号で、飲食を伴うダンスパーティは風営法2条3号で規制対象となっています」



このように立石弁護士は切り出した。そのうえで、風営法が制定された背景について、次のように説明する。



「風営法が制定された1948年(昭和23年)当時は、社交ダンスホールで売春事犯が多数発生していたという時代背景がありました。そのためダンスは男女の享楽的な雰囲気を醸し出すおそれがある行為として規制する必要があったのです」



売春の温床になっていた、というのであれば規制もわかる。しかし1948年と言えば、日本はまだGHQの占領下で、帝銀事件が起きるなど、終戦直後の混乱期だ。



「その後、時代は変わり、社交ダンスが性風俗の隠れ蓑に使われることはなくなりました。ダンスは中学校の体育の必修科目になるなど、ポピュラーな文化として日本社会に根付きました。しかし、ダンス営業規制は現在でも残り続けています」



●法律と実情の「ギャップ」を埋める努力が続いてきたが・・・


なぜ、そんな時代の規制が残っているのだろうか。これまで、そうした規制は問題視されていなかったのだろうか。



「この法律と実態の乖離をなんとかしようと、長年、一部の社交ダンス教室やダンス愛好家たちが法改正運動を行ってきました。



1984年(昭和59年)の風営法改正では、ダンス教室に未成年者の立ち入りが認められるようになりました。また、1998年(平成10年)の改正で、政令で定めるダンス教授資格を取得したダンス教室は規制対象外となりました」



なるほど、社交ダンスに関しては、徐々に状況が変わってきたようだ。そうなると、現在の問題はどこにあるのだろうか?



「しかし、それでも法律とダンスをめぐる現状とのギャップは埋まっていません。たとえば、政令で定めるダンス教授資格認定制度は、社交ダンスにしか用意されていません。



つまり、サルサダンスやアルゼンチンタンゴ等の教室は資格を取ることができず、規制対象から外れることができないのです。これもダンスの多様性に法律が追い付いていないことの表れです」



●ダンスパーティを開くには「風俗営業許可」が必要


サルサやタンゴなど、伝統的なダンスの愛好家にとっては、何とももどかしい話だろう。さらに、立石弁護士はダンスパーティの規制について、次のように説明する。



「飲食を伴うダンスパーティは、営業者がダンス教授資格を有していても、依然として風営法2条3号の風俗営業にあたります。要するに、現行法上、サルサやタンゴ等の教室や、社交ダンスを含むすべてのダンスパーティを開催することは、風俗営業の許可を取っていなければすべて『違法営業』なのです」



社交ダンスの教師が開くようなパーティを、「違法」としなければならないような、危機的状況があるのだろうか。



「規制の趣旨は、飲食を伴う場合には、ダンス教師と生徒がダンスの技能の修得という目的意識を損ない、男女間の享楽的な雰囲気が生じる可能性があるからと説明されています。しかし、警察庁によれば、実際にそのような問題が起きているという報告はないとのことです」



●風俗営業の許可が広がっていかない背景とは?


多くのダンス教室に風俗営業の許可が必要だとしたら、積極的に「許可」をとっていけばいいとはいえないのだろうか。



「風俗営業の許可は、事業所の構造要件や営業地域制限等が厳しく、取得が難しいのが現実です。また、風俗営業者として警察の管理下に置かれることに、心理的な抵抗感を覚える人も少なくありません。そんなことから、風俗営業の許可を取得しようという動きは、なかなか広がっていかないようです。



そのため、昨年高知市の公民館でのダンスサークルのように、まさか風俗営業になるとは思わないで、無許可の風俗営業者になっている例が後を絶たないのです」



それにしても、地域の公民館で開くダンスパーティがもつ「享楽的な雰囲気」というのは、具体的にはどのような内容なのだろうか。もしかして、高校文化祭の後夜祭で、飲食しながらダンスをするのにも、風俗営業許可が必要なのだろうか。



社交ダンスやサルサ、タンゴを規制しなければならないという人たちの考える「享楽的な雰囲気」とはどんなものなのか、そのイメージを動画などで見せてもらいたいものだが……。



(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
立石 結夏(たていし・ゆか)弁護士
横浜弁護士会所属。「クラブとクラブカルチャーを守る会」顧問弁護士。風営法改正運動に携わり、その方法論をまとめたコラムは「踊ってはいけない国で、踊り続けるために ---風営法問題と社会の変え方」(2013年刊行 河出書房新社)に掲載されている。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html