2013年11月14日 11:31 弁護士ドットコム
絶滅が危惧されている国の天然記念物ツシマヤマネコが、長崎県対馬市の男性によって約15年間にわたり飼育されていたことが発覚した。衰弱したツシマヤマネコを心配した男性が、対馬野生生物保護センターに連絡したことで明らかになった。
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この男性は約15年前、路上で怪我をしていた子どものツシマヤマネコを保護し、動物病院に連れて行った後、自宅で飼育していたという。環境省によると、男性の行為は「種の保存法」に抵触するというが、悪質性が低いと判断され、厳重注意にとどまった。
傷ついた動物を助け、大事に育てたことは美談ともいえそうだが、希少な野生動植物の捕獲は法律で禁止されている。今回のようなケースでは、発見後、どのように対応すれば良かったのだろうか。一時的に保護することも法に触れるのだろうか。野生動物・自然環境の保護に取り組む藤田城治弁護士に聞いた。
「ツシマヤマネコは、『種の保存法』(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)で指定された『国内希少野生動植物種』で、その『生きている個体は、捕獲、採取・・・してはならない』と定められています」
このように藤田弁護士は切り出した。
「この男性は、路上でけがをした子ネコを保護したのちに、無断で、約15年にわたり飼育したのですから、『捕獲』にあたり、この法律に違反しています。男性の『捕獲』行為があったのは法改正前なので、適用される罰則は、『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』ですが、現在の法律では、『5年以下の懲役または500万円以下の罰金』となります」
では、男性はどうすべきだったのだろうか。
「本来であれば、この男性は緊急的にヤマネコを保護したのと同時に、環境省や自治体に連絡して、その指示に従うべきでした。今回、衰弱したとして連絡したのと同じようにです。そうしていれば、『行政が捕獲した』という扱いになります」
今回の男性は、悪質性が低いということで罰せられず、厳重注意になった。ツシマヤマネコとしては異例の長生きだったため、「安全な環境でネコは幸せだったろう」という感想も見られる。しかし、藤田弁護士は「種の保存法からは、この男性の行為を『正しい行為』『美談』とすることはできません」と厳しく指摘する。
「野生生物は、種族内の争いや天敵との戦いなどを通じて命がけで生きていくなかで、その種としてのアイデンティティを確立してきました。あくまで『野生生物としての寿命』を全うさせ、そのための環境を整備するのが、『種の保存法』の目指すところです。十分なエサを与え、長生きさせたことを『正しい』とはしないのです」
このように説明したうえで、藤田弁護士は今回の特例措置について、次のように述べている。
「ツシマヤマネコは絶滅危惧種で、その1頭1頭が『種』の存亡に関わる重要な個体でもあります。今回は、違法な『捕獲』による不法所有だったのですが、種の保存に関わる1頭を適切に扱っていたという点で情状酌量がされたのだろうと思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
藤田 城治(ふじた・じょうじ)弁護士
第二東京弁護士会・環境保全委員会、関東弁護士会連合会・環境保全委員会委員
個人・企業を対象とした各種民事・刑事事件を扱っているほか、事務所の弁護士各自が野生動物・自然環境の保護にも取り組み、イリオモテヤマネコ等の保護活動を行っている認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(http://www.jtef.jp/)をサポートしている。
事務所名:森の風法律事務所