2013年11月12日 15:41 弁護士ドットコム
「特にないとはなにごとか!」。傷害致死に問われている17歳の被告人少年に対して、裁判員の男性がそう怒鳴りつけたという「事件」が報じられた。
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この騒動は、10月24日の大分地裁で起きた。19歳のホテル従業員が、集団暴行によって死亡した事件の最終意見陳述の場だった。被告人の少年が「特にありません」と述べたことに対して、男性裁判員が大声を浴びせたのだ。法廷は一時騒然となり、弁護人は「不規則発言で被告人を威嚇した。威圧的な大声を出し裁判所の品位を汚した」として裁判員の解任を要求したが、裁判官と話し合った末に取り下げたという。
今回は最終的に取り下げられた「解任要求」だが、裁判途中での裁判員解任は、どんな場合に、どんな手続でできるのだろうか。日本弁護士連合会・裁判員本部の委員をつとめる永芳明弁護士に聞いた。
「裁判員法には41条以下に解任に関する規定があり、裁判員が解任される場合が列挙されています。そのいくつかを見ていきましょう。
(1)選任手続において、公平誠実に職務を行う旨の宣誓を行わないとき。
(2)公判期日や判決の宣告の期日に出頭しない場合で、引き続きその職務を行わせることが適当でないとき」
これは分かりやすい。宣誓をしなかったり、出頭しなかったりといった人に裁判員を任せるのは難しいだろう。永芳弁護士は次に、裁判員が負っている「義務」についても説明する。
「(3)裁判員のさまざまな義務に違反し、引き続きその職務を行わせることが適当でないときも解任される場合があります。
この義務の中身は、(A)公平誠実に職務を行う義務や、(B)職務上知り得た秘密を漏らさない義務、(C)裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為を行わない義務、(D)品位を害するような行為をしない義務、(E)評議の秘密を漏らさない義務、(F)法令解釈などに関する裁判官の判断に従う義務、など多彩です」
列挙された義務の中には、「品位」という言葉も登場している。さきほどの例で、弁護人が解任を要求した際には、この規定が念頭にあったのかもしれない。
「このほかに、次のような場合もあります。
(4)選挙権が無い等の裁判員になる資格がない場合や、禁錮以上の刑に処せられた等の欠格事由や、国会議員である等就職禁止事由があるとき。
(5)不公平な裁判をするおそれがあるとき。
(6)裁判員候補者であったときに、質問票に虚偽の記載をした等が明らかになり、引き続きその職務を行わせることが適当でないとき。
(7)裁判長の命令に従わなかったり、暴言や不穏当な言動で公判手続の進行を妨げたとき」
こうしてざっと見てきたが、裁判員として不適格とされる理由は、幅広く定められているようだ。それでは、もしこうした事例に該当する場合、「解任」はどのような手続きで行われるのだろうか。
「手続きとしては、検察官、被告人または弁護人が、解任を請求できます。そして、その解任請求について、裁判所が解任を認めるかどうかの決定をすることになっています。
また、検察官、被告人または弁護人からの解任請求がなくても、裁判所の職権で解任されることもあります」
いずれにしても、最終的には裁判官の判断となるようだが、裁判内容と直接関係しない議論は、できるだけ避けるべきということだろう。裁判員に選ばれた際には、こうした点にもきちんと留意してもらいたい。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
永芳 明(ながよし・あきら)弁護士
滋賀弁護士会・刑事弁護委員会 委員長、貧困問題対策プロジェクトチーム 委員長、日本弁護士連合会・裁判員本部 委員
事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/