2013年11月07日 17:20 弁護士ドットコム
学校の先生が多少の不祥事を起こした程度では、もう誰も驚かなくなってしまったが、三重県の市立中学でまた、思わずため息をついてしまうような「事件」が起きた。
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報道によると、40代の男性教諭が休憩時間中の教室で、私物のパソコンを使って、わいせつな映像をDVDにダビングしていたことが判明したのだそうだ。教諭のPCの画面に、わいせつ映像のタイトルが表示されているのを生徒が発見。すると、教諭は「勝手に見るな。訴えてもええのか」と叱責したという。
校長は「あってはならないこと。生徒や保護者に申し訳ない」と話している。今後、学校や市教委がどんな処分をするかは分からないが、法律的にはどんな問題があるだろうか。長谷川裕雅弁護士に聞いた。
「今回の行為は、わいせつ物頒布等の公然陳列行為にあたる可能性があります(刑法175条)。規制の対象は、わいせつな文書、図画その他の物であり、『わいせつな映像』も対象となります。
公然陳列の『公然』とは、不特定または多数の人が認識することができる状態をいい、『陳列』とは、認識することができる状態におくことをいいます。陳列といっても、店舗の棚などに並べられる必要はなく、映画の映写や、テレビを通じて放映し視聴者が観覧することができる状態におくことも、陳列にあたるのです」
長谷川弁護士はこのように指摘する。男性教諭としては、「こっそり」やっていたつもりかもしれないが……。
「今回、男性教諭がわいせつな映像をダビングしていたのは休憩時間中の教室ですので、生徒が今にも入室してくる可能性があるといえ、『不特定または多数の人が認識することができる状態』です。現に生徒が発見しています」
報道によれば、この教諭は、不特定多数の人間が出入りする教室に、起動したパソコンを放置しておいたということだから、「誰かに見られる可能性を全く考えていなかった」というのは難しそうだ。そうだとすれば、パソコンに表示されていた映像が「わいせつ物」にあたると判断された場合、この犯罪が成り立つ可能性もあるということだろう。
それでは、男性教諭の「叱責」についてはどうだろうか。
「男性教諭が生徒に対して『訴えてもええのか』と叱責した行為は、脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があると考えられます。脅迫とは、相手方を畏怖させることができる程度の害悪の告知をいいます。
『訴える』と伝えることが害悪の告知にあたるかどうかが問題となりますが、『訴える』ということはこの場合、告訴をするという意味で言っていたと思われます。
判例では『告訴の意思がなく、またはその意思が不確定であるのに、ことさらに告訴すべきことを通知するのは、害悪の告知にほかならない』と判断されています。したがって、今回の男性教諭の叱責は脅迫罪にあたる場合があります」
長谷川弁護士が示したように、今回のような状況で発せられた「訴えてもええのか」は、むしろ脅しと受け止めるほうが自然といえそうだ。
それにしても、この手のニュースを見慣れてしまった現状を振り返ると、事態は「一教師のモラルの問題」と言い切れない段階にまで至ってしまったのではないか、という気がするが……。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
長谷川 裕雅(はせがわ・ひろまさ)弁護士
早稲田大学卒業後、朝日新聞記者。男女間のトラブルを幅広く取り扱う。テレビ・新聞・雑誌の事件解説多数。著書に「なぜ酔った女性を口説くのは『非常に危険』なのか?」(プレジデント社刊)など。
事務所名:東京弁護士法律事務所
事務所URL:http://danjotrouble-bengo.com/