2013年11月05日 13:20 弁護士ドットコム
5万8729人。猛暑だった今年の夏(6月~9月)、熱中症により救急搬送された人の数だ。総務省消防庁が10月中旬に発表したまとめによると、これまでで最も多かった2010年の5万6119人を上回り、過去最多の搬送人員数になったという。
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熱中症になる状況はさまざまだが、仕事をしているときに発症する人も多い。厚生労働省によると、今年、仕事中に熱中症にかかり、亡くなった人の数は、8月末までで29人に及んでいる。熱中症というと、「炎天下での長時間作業」というイメージが頭に浮かぶが、死亡事例は、炎天下の屋外ばかりではない。場所は建築現場や工場、倉庫、車の中と多種多様で、時間帯も10時台~19時台と幅広い。
たとえば、屋内で電気配線工事をしていた人が、天井裏から降りてきた際に「熱いな」と言葉を発し、壁にもたれるように意識を失ったまま……というケースも紹介されている。
こうした仕事中の「熱中症」は、労働災害の対象となるのだろうか。また、会社側には、従業員の熱中症を防ぐ義務があると言えるのだろうか。労災問題に詳しい古川拓弁護士に聞いた。
「熱中症は労働災害の対象となります。実際、熱中症による労災認定件数は、2010年で616件もあります。また、2012年には、死亡された方のケースだけでも21件が労災認定されています」
古川弁護士はこのように説明する。熱中症が労災認定されるのは、どのようなケースなのだろうか。
「熱中症が労災であると認められるための条件を簡単にまとめると、(1)現場の温度・湿度、作業環境、労働時間、作業内容などを総合的に判断して、熱中症が発生するような環境であったこと、(2)熱中症を発症していたと医学的に認められること、ということになります。
つまり総合判断なのですが、その中でも一番大きな要素は、『温度・湿度』と『作業内容』です」
ところで、仕事中に熱中症にかかる可能性があるとすれば、会社にはそれを防ぐ義務があるだろうか。
「はじめにご紹介した統計からも分かるように、熱中症は死に至る場合もある危険な病気です。したがって、会社には熱中症についての十分な知識にもとづいた予防対策を行う義務があると言えます」
具体的には、会社は何をすれば良いのだろうか?
「たとえば、次のような対策でしょう。
(A)現場の温度と湿度を測定・把握して、日除けや空調管理などを行うこと。
(B)状況に応じて作業時間の短縮や休憩時間を調整したり、労働者が熱に慣れるように配慮すること。
(C)労働者の健康状態の把握(体温測定、健康管理など)
(D)熱中症の予防方法や、かかってしまった場合の救急措置について、労働者や現場責任者などに対して教育をおこなうこと」
「この際、状況を把握するためには『WGBT値』という『暑さ指数』が指標になります。また、環境が過酷な場合、十分な対策をしない(できない)のであれば、いったん作業を中断することが必要になる場合もあると考えられます。より詳しくは、厚生労働省が作成した『職場における熱中症予防マニュアル』などを参考にしてください」
古川弁護士は、「もし、会社がこれらの義務を怠った結果労働者が熱中症になってしまった場合、会社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償責任が発生する可能性があります」と注意を呼びかけていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
古川 拓(ふるかわ・たく)弁護士
らくさい法律事務所代表。2004年弁護士登録。京都弁護士会・過労死弁護団所属。特に過労死・過労自殺・労災事故などの労災・民事賠償事件に力を入れ、全国から多数寄せられる相談や事件に取り組んでいる。
事務所名:らくさい法律事務所