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初めて逮捕された「復讐屋」 メールの送り方を教えただけなら「犯罪」ではない?

2013年11月01日 16:50  弁護士ドットコム

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インターネットを検索すると「復讐代行」をうたうサイトがいくつも出てきて驚かされる。こうしたサイトを運営していたとされる男性が10月下旬、名誉毀損の疑いで逮捕された。この手の「復讐屋」が摘発されるのは今回が初めてという。


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報道によると、この男性は広島県に住む女性から依頼を受け、女性のかつての勤め先にあてて、元同僚を中傷するメールを十数回送った疑いがもたれている。メールは発信元がわかりにくくなるよう海外のサーバーを経由して送られていたようだ。ただ、読売新聞の報道によれば、男性は「メールの送り方は教えたが、自分はやっていない」と容疑を否認しているという。



この男性の言い分のように、復讐をもくろむ依頼人の相談を受けて「身元のバレにくいメールの送り方」をアドバイスしただけだったとしたら、犯罪とまではいえないのだろうか。辻孝司弁護士に聞いた。



●犯罪行為を知ったうえで「手段」を教えるのはダメ


「単に『身元のバレにくいメールの送り方』をアドバイスしただけであれば、罪に問われることは考えにくいですね。たとえば、『伊達直人』を名乗って身元を隠して匿名で寄付する人がいるように、身元を隠してメールを送ることが必ず犯罪に結びつくわけではないからです」



辻弁護士はこのように指摘したうえで、「ただし、依頼人が復讐をもくろんでいることを知っていながら、『身元のバレにくいメールの送り方』をアドバイスしたのであれば、共犯になる可能性があります」と釘を刺す。



具体的には、どんな犯罪の「共犯」になる可能性があるのだろうか。



辻弁護士は「復讐のためにメールを送るといっても、いろいろなケースがある」とし、いくつもの犯罪を列挙した。



「たとえば、復讐したい相手や家族、勤務先、学校などに直接に脅迫メールを送れば脅迫罪になります。脅迫した上で金銭を要求すれば恐喝罪ですし、何らかの行為を行わせれば強要罪です。脅迫によって業務に支障が生じれば、威力業務妨害罪になります。



また、勤務先や関係者に相手の名誉を毀損するような内容のメールを送ったり、ブログに投稿したりすると名誉毀損罪になります。



こうした犯罪に使われることをわかった上で、アドバイスをすれば幇助(ほうじょ)犯として罪に問われるでしょう」



幇助とは、一言でいうと手助けのことだ。それでは、「復讐屋」の場合は?



●「復讐目的」であることはわかっていたはず


「『復讐屋』『復讐代行』などと銘打ったホームページを見て依頼してきた相手であれば、少なくとも『復讐目的』であることがわかっていたはずです。



そして『復讐目的』だとわかっていたのであれば、『身元のバレにくいメールの送り方』が脅迫、名誉毀損などの犯罪のために使われることも、わかっていたということになるでしょう」



全ての復讐がただちに犯罪とは言えないだろうが、「身元を隠したい」として「復讐屋」に相談してきたとすれば、疑わしさはかなりの程度だろう。そうなると……。



「依頼者が脅迫や名誉毀損などの犯罪を行うことを『復讐屋』が知っていたか、あるいは、当然わかるはずの状況であったということになれば、罪に問われる可能性が高いと言えるでしょう」



辻弁護士は、このように話を締めくくっていた。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
辻 孝司(つじ・たかし)弁護士
京都弁護士会:刑事委員会委員長、元副会長、日本弁護士連合会:刑事弁護センター、死刑廃止検討委員会、近畿弁護士会連合会:刑事弁護委員会副委員長、京都産業大学法科大学院非常勤講師、学校法人ノートルダム女学院監事、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事
事務所名:京都はるか法律事務所
事務所URL:http://www.kyoharu.com/