2013年10月31日 21:21 弁護士ドットコム
「法廷における方言」。そんなタイトルの本がある。著者は京都教育大付属高校の国語科教諭、札埜(ふだの)和男さん。「裁判の場で方言はふさわしくない」という裁判官の発言に、「本当にそうなのか」と疑問を抱いたのをきっかけに、100件以上の裁判を傍聴し、法廷における「方言の機能」についてまとめたものだ。
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札埜さんは、法廷での方言には「相手の心に近付こうとする」「緊迫感ある法廷の場を和ませる」といった役割があると分析しているが、実際の法廷では、裁判官から「方言ではなく標準語を使うように」と指示されることもあるようだ。
では、法廷に立つ弁護士は、「方言の使用」についてどのように考えているのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士たちに聞いてみた。
「これまでに法廷で方言を使ったことがありますか?」。こんな質問でアンケートをしたところ、25人の弁護士から回答があった。その内訳は、「ある」が6人、「ない」が19人。約8割の弁護士が「法廷で方言を使ったことがない」と答えた。
少数ではあるが、「方言を使ったことがある」と返した弁護士に、どんな場面で使ったのかをたずねると、「証人尋問などで、実際に話した言葉を言ってもらう場合」という回答の一方で、「田舎育ちですから、方言を使わないように注意していても、ごく自然に方言が出ます」という答えもあった。
裁判官のなかには「法廷ではできるだけ標準語を使うべき」と考えている人もいるようだが、弁護士の場合はどうなのか。アンケートに回答した25人のうち、「標準語を使うべきだと思う」が12人でもっとも多かった。「どちらともいえない」は9人、「標準語を使うべきだとは思わない」は4人にとどまった。
半数近い弁護士が「法廷では標準語を使うべき」と考えているわけだが、その理由はどんなところにあるのか。寄せられた意見は次のようなものだ。
「誰が聞いてもわかりやすいし、場が締まる」
「方言を使うことによって、理解を誤らせる危険がある」
「方言がわからない側、弁護士に不利になる」
なかには、現在の日本の裁判制度をふまえて、次のように指摘する意見もあった。
「裁判官が数年で全国転勤を繰り返す現状の制度下では、方言の使用により、裁判官がその方言を理解できなければ、方言を使用した当事者はかえって不利益を被るおそれもある」
一方、「法廷でできるだけ標準語を使うべきだとは思わない」と答えた弁護士に、その理由をたずねると、「方言の方が微妙なニュアンスまで正確に伝わる場合もある」「方言でも標準語でも普段使用している言葉を使う方が証人の緊張が和らぐように思う」といった意見が返ってきた。
また、法廷における「方言の機能」についてコメントを求めたところ、「方言は真実を語ることになり、迫力ある証言を得られる」「具体的な、実際の会話などを再現しやすい」「その地方の方言を使うことで、話のテンポが良くなり、進行がスムーズに行える」といった回答が寄せられた。
ただ、方言にこのような機能があるとしても、訴訟をつかさどる裁判官が理解できなければ意味がない。そこで、「方言で証言をしたら、代理人・弁護人が質問して、標準語に訳すことが必要」という指摘もあった。
(弁護士ドットコム トピックス)