2013年10月30日 14:01 弁護士ドットコム
『アンパンマン』の作者として知られる漫画家のやなせたかしさんが10月13日、94歳で亡くなった。アンパンマンは1973年の絵本雑誌掲載から40年、1988年のテレビアニメ放映開始から25年が経った今も、子どもたちを中心に大人気で、「誰もが知っている」といっても過言ではない作品だ。
【関連記事:テレビでおなじみ「負けたら食事代おごり」のゲーム 「賭博罪」にはならないの?】
ファンの子どもたちにとっては、作者のやなせさんが亡くなったことで、「今後、アンパンマンはどうなってしまうのか」が一番心配かもしれない。やなせさん自身はその疑問に対して、「おれが死んでも終わりません。誰かが続けるでしょう、永遠に」と生前のインタビューで答えている。
これほど愛されている作品だけに、やなせさんの言葉通り、その遺志を継ぐ人が続々登場することは想像に難くない。ただ、その場合、亡くなったやなせさんの「著作権」や、そこから発生する「著作権料」については、どのような扱いがなされるのだろうか。著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。
「著作権は、著作者が亡くなった後も50年間(保護期間)、保護され続けます。著作権は、通常の財産と同様に相続の対象となります。遺贈することも可能です」
このように述べたうえで、唐津弁護士は次のように続ける。
「報道によれば、やなせさんには法定相続人がいないようだとも伝えられていますが、遺言により受取人を指定していれば、指定された法人や個人が著作権を引き継ぐことも可能です。
ただ、法定相続人も遺贈の受取人もおらず、財産分与を申し立てる特別縁故者もいない場合、通常の遺産であれば国庫に帰属しますが、著作権の場合は消滅することになります」
今回、やなせさんの権利が具体的にどうなるかについては伝えられていないが、相続した人の意向によっては、利用が難しくなるケースもあるのだろうか。
「たとえばですが、著作権について複数の相続人がいる場合は、著作権は共有されることになります。著作物を利用したいと希望する場合、原則として全相続人から許諾を得る必要があることになり、著作物の利用が困難になる場合もみられます」
なるほど、権利を持つ人が4人も5人もいたとすれば、全員の承諾を得るのは大仕事になりそうだ。それでは、やなせさんが生前に結んでいたライセンス契約などは、今後どうなるのだろうか。
「アンパンマンは、絵本、テレビアニメ、映画、キャラクター商品等、非常に幅広く利用されていますが、これらの多くは、著作権者からライセンス(許諾)を受けた者によって制作されていると考えられます。
ライセンス契約は、原則的には、著作権者の死亡後も存続します。ただし、著作権者の死亡によって終了するという規定があったり、契約の内容から著作権者の死亡によって当然に終了すると解釈される場合は別です。また、著作権の保護期間や契約期間が終わった場合もそこで終了です。
契約が存続すれば、今まで受けていたライセンスも引き続き利用可能です。使用料を支払う相手は、契約上の地位を元の著作権者から引き継いだ(相続した)人に変わります」
そうなると、ファンとしては、著作権を相続した人の判断に注目するべき、ということだろうか。なお、著作物にまつわる権利の中には、相続されないものもあるようだ。
「『著作者人格権』と呼ばれる公表権や氏名表示権、同一性保持権については、著作者の死亡によって消滅します。ただし、著作者の死後も、著作者が生きていれば著作者人格権の侵害にあたるような行為は禁止されていますので、注意が必要です」
なるほど、著作者人格権は他人に譲り渡すことはできないが、「著作者本人の意向」は死後も尊重されるということだ。今後も、やなせさん本人の考え方が十分反映された形で、シリーズが発展していくことを願いたい。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
唐津 真美(からつ・まみ)弁護士
主な取扱業務はアート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般。特に著作権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス多数。第一東京弁護士会・法教育委員会委員長、東京簡易裁判所・司法委員。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:http://www.takagicho.com