2013年10月24日 20:30 弁護士ドットコム
デフレ脱却へ民間企業の賃上げをうながそうと躍起の安倍政権。ついに経済産業省は、茂木敏充大臣を筆頭に幹部らが全国の主要な経済団体や企業を訪れ、賃上げを直接要請することを決めた。
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厚生労働省の統計によると、基本給や残業代、ボーナスなどを合わせた「現金給与総額」の平均額は、7月と8月で前年同月を下回った。日本経済は景気回復基調を強めているが、まだ産業界で賃金アップが本格的に広がっているとは言いがたい。経産省による異例の全国行脚からは、こうした状況を打開したいという政府の思いが感じられる。
日経新聞の報道によれば、業績拡大にも関わらず賃金を上げようとしない企業は、経産省が調査して公表する方針だという。これを受けて、「社名公表のペナルティ」と報じているメディアもある。しかし、そもそも民間企業の経営に政府が事実上介入するような要請や社名公表といった“ペナルティ“は、法的に問題ないのだろうか? 鈴木謙吾弁護士に聞いた。
「報道を見る限り、賃上げを要請する目的は、消費税増税などから労働者の生活を守ることのようです。その意味で、目的自体は正当に思えます」
鈴木弁護士はこのように切り出した。すると、政府の賃上げ要請や社名公表は問題ないと言えるのだろうか。
「しかし、実際に賃上げするかどうかは、業績など様々な事情を考慮し、高度な経営判断の上で、各企業が決めることです。したがって、国が企業に対して、賃上げを法的義務として強制するような要請は、法的に問題があることは間違いありません。
今回、政府はあくまで『要請に過ぎない』というスタンスのようです。しかし、国が個別の企業に直接要請を行うことや、社名公表によるプレッシャーを考えると、『強制ではない』と言い切れるのかについては、判断が難しいところです」
確かに、政府からの直接要請をはね付けた結果、自社の名前を公表される――という事態は、どんな企業でも避けたいところだろう。
「企業名の公表は、『実質的にはペナルティの趣旨』と評価できなくもありません。こうした実質面を考慮する必要があります。
『公益』という観点からすれば、労働者を保護する必要性はありますし、そのためには様々な政策論があるでしょう。しかしながら、国が恣意的に選んだ企業にのみ、賃上げを事実上強制するとしたら、少し問題があるように感じます」
鈴木弁護士はこのように結論づけたうえで、「法律で強制的に賃上げを実現させたいのであれば、たとえば『最低賃金を引き上げる』など、別の方法もあります」と付け加えていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。
鈴木謙吾法律事務所 代表弁護士。
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com